暁 〜小説投稿サイト〜
乱世の確率事象改変
黎明の光が掃う空に
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歩いていた彼の脚が止まる。
 たたっ……と走り来て、朔夜は黒の外套をぎゅうと掴んだ。

「ダメ、です」

 抑え切れるわけがない感情の発露。初めて出来た大切で、絶対に失いたくないのは朔夜も同じ。明にとって夕が大事であるように、朔夜にとっての秋斗もそういう存在。
 ふい……と明が少女を見やった。絶望に支配された視線が交錯する。今にも泣き出しそうな少女と、泣いている少女。

「私の、大切な人を……っ……奪わないで」

 縋り付くような声が零されても、明は表情を変える事は無い。

――ああ、この子はあたしと同じだ。秋兄が一番大切で、他の命はどうでもいいんだ。

 こんな所にも自分の同類を見つけて、なんら光を宿さない昏い黄金が揺れていた。

――怖い、恐い……この人が死んでしまうのが怖い。居なくなるのが怖い。“戻ってしまうのが……怖い”。この人が居ない世界になんか、価値は無い……。だから……連れて行かないで。

 喪失は絶望だ。変化は恐怖するに足る。朔夜が頭を撫でて欲しいのは今の彼で、並び立ちたいのも今の黒。夜天に相応しく成長し得るのは黒麒麟では無く、記憶を失った彼だと、そう感じていた。
 この程度で揺らがないなら切り口を変えるべき。そう判断した朔夜は、希望を込めて口から真実を並べた。

「この人は……あなたの、知っている黒麒麟ではありません」
「……どういう事?」

 ずっと疑問に思っていた。昔の彼かと言えば違和感を覚える対応。真名さえ呼んでくれないなら当然。

――昔のこの人では無いと知れば、きっと彼女は怒るはず……。

 藍色の瞳が輝く。昏く、暗く。
 情緒不安定な人間に切片を投げやれば、信じる心を揺るがせる。そう信じて続けた。

「秋兄様は、劉備軍所属時の記憶を失っています。鳳雛の、事でさえ覚えていません。当然、あなたの事も」

 驚愕のまま、秋斗の横顔を見た明は、目を瞑り黙っている彼をじっと見やった。

――記憶を……無くした?

 だから真名を呼ばなかったのかと、納得が行く。
 自分と同類だと信じてやまないモノが異物だった。それは明にとっては大きな問題。

――じゃああなたは、なんの為に夕を助けたいの? ただ曹操軍の勝利の為に、あたしを利用しただけ? 曹操の為の将に……本物の狂信者になっちゃったわけ?

 冷たいくせに甘くて、優しいくせに残酷で、矛盾だらけでも芯を持つ、そんな男だから信じられるのに……そうして疑念の種が心に蒔かれる。
 す……と開かれた眼。黒瞳が黄金に向けられ……明は呆然と見つめた。

「で? それが田豊を助けに行く事と関係があるのか?」

 呆れたような笑み。目的を求めるだけのその言は、彼女達が連合時に示したモノと変わらない。
 互いに利用し
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