黎明の光が掃う空に
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母さんがまた働けるようになるのは袁家にとっても大きな利益になる……優しい麗羽達はそう考える。
巡る思考は何度も繰り返したモノ。大切なモノが助かる未来を追いかけ続けて、足掻いて足掻いて、抗ってきた。
――曹操を倒せば大陸でも一番有力になる袁家が、“自身に抗いそうな一人の才如き”に固執するわけが無いのに。
救いを求めて戦ってきたから、敵の思考も思惑も、その全てが手に取るように把握出来た。
――生きているか死んでいるか分からない状況。護衛に残してきた兵士達に賭けるしか、私には手が無い。
大切なモノが助かる可能性が僅かにでもあるのなら、夕は賭ける。母を失っては全てが台無しで、彼女自体も耐えられない。
――疑念だけで判断するのは早計。けど、あのクズと上層部なら、私を殺したいに違いない。
優しいから、家を捨てきれないから、麗羽達は気付かない。自身の家の悪辣さを本当の意味では理解出来ない。
一瞬の思考は誰にも読まれることが無い。
彼女の頭は些か良すぎた。そして……母を切り捨てるには……少女の心は弱すぎた。
一筋の光明のような希望に縋るしか、夕には残されていなかった。
「夕さん」
目の前で浮かべられる麗しい微笑み。瞳を合わせるは自身の真名を捧げた主。輝かしい栄光の道を歩けたはずが人形にされてしまった王。
可能性の話で彼女達の優しさを無碍に切る事も出来ず、夕は王の言を待つ。
「張コウさんに授けた策は必ず成功しますわ。あなたの大事なお友達ですもの、彼女はあなたを信じて遣り切るに違いありません。わたくし達は信じています。ですから……あなたは……その……」
言い難そうに眉根を寄せる彼女は、漸く本当の自分としての道を歩き出そうと、意思を持った一人の人間。誰がその初めの一歩を挫けよう。
「ん……命じて、麗羽」
一つ、涙の雫が零れた。
麗羽達は歓喜の涙だと思ってやまない。
夕にとっては、諦観と絶望に塗れた一滴であった。
大きく深呼吸をした麗羽は、碧の宝石の如き瞳を輝かせ、ふるふると首を振ってから、優しい、優しい微笑みを向けた。
「いえ、主としてでは無く、お友達として言いたいのですわ。あなたの大切な母と、ゆっくり休んでくださいまし。わたくし達の勝利を信じて」
肩を震わせて、もう嗚咽を抑えられずに、夕はしゃくりあげた。
夕の胸には後悔が一つ。
“もし”、この優しい王ともっと早く理解し合えていたのなら……
――私達には、救いがあったのかな……明。
誰にも話す事の出来ない黒の少女の絶望が、夜の闇と共に迫っていた。
†
「秋兄様っ」
後ろから掛かる少女の声に、未だしゃくりあげている明を支えて
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