第3話 天狗の狗法
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記された紙を握り締めて、背筋を伸ばして正座していた。景虎様が席に着くと、凛とした表情で口を開いた。
「さて、今日は今後我らが越後の為にどうするか軍師たちの献策を聞きたいと思う」
「まずは定満。颯馬とふたりでまとめた策があると聞いているが――」
「景虎様、その前に聞いていただきたいお話があります」
「弥太郎……話とは?」
「先日、我がもとに策を講じてきた者がおります。この策は軍議の課題にかない、内容も見事なものでした。よろしければ軍師の皆さまの策に先んじて、吟味をお願いしたく思います」
「ほう、面白い。分かった。ではまずその策から吟味するとしよう」
「お聞き届きいただき、ありがとうございます。与六、お許しが出た。此処に来て自らの策を景虎様に献じるがいい」
与六……誰だ? いや、聞いた覚えはあるが……。思い出した。炊事係の名だ。
え? 炊事係がそれほどの策を出したって言うの? 驚愕だな。
「は、はいッ!」
少女が声をうわずらせてはいってきた。彼女が与六だろう。
与六が講じた策は、素晴らしい内容だったと思う。いや、俺に評価をするだけの頭はない。周りの諸将達が感心していたので、与六の策が如何に素晴らしいものか理解できた。
居並ぶ諸将達は灌漑の声を上げている。
見事な策だと称賛の声が上がる中、与六は緊張した面持ちで景虎様の様子を伺っていた。
他の人間など気にならない……ただ、景虎様がどう思っているのかが気がかりだと言う様子だ。
「見事な策だ。与六、お前は確か炊事と配膳の仕事をしていたと思ったが、思わぬ才を隠していたようだな」
「あ、ありがとうございます!」
「実は……ひょんなことから、そのような策を景虎様が求めていると知り、自分なりに考えたところ、思いがけず良い策となったので……」
与六ってすごいな。ここまでの才能があったとは。こうして、人は好機を掴んでいくのだろう。
人の世とは大変だ。
「僭越だとは思ったのですが……物は試しにと思って小島様に見てもらったのです」
「ふふっ抜け目のない奴だ。だがお前の際は本物の様だ。お前は自らの手で好機を掴み、良き策を献じた。この功に報いよう」
「与六。お前は今より、長尾家の将として取り立てる。弥太郎、与六を預ける。長尾家の次代を担う将としてしっかり育てよ」
「は、ははは、はいっ!! あ、ありがとうございます!」
「ふふっ、与六、喜んでばかりではいられないぞ? 出世などしない方が良かったと思うぐらい厳しく鍛えてやるから覚悟しろ」
「よ、よよよ、よろしくお引き回しの程をっ!」
「さて、与六の策は素晴らしかった。あの後で策を献じるのを臆する者もいると思うが……」
「そんなことないの……」
「景虎様。颯馬君の策も、面白いの」
「ほう……では颯馬。お前の策を見せてもらおう
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