第14話 下らない昔話
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切り捨てにかかるというのは、これは予想外だった。一年にとって憎い先輩というのは、けして自分だけではないはずだ。むしろ自分は、つい最近まで、7時雨天から一年を守っていた。それが先輩や同級生との溝を生んだというのに……
理不尽な思いになって、身体から力が抜けていく心地がしたが、一方で小倉は悟り、そして諦めた。そもそも、一年を庇ってやっている自分、というイメージが、自分の作り出した妄想だったのだ。確かに、7時雨天はやってこなかったが、それを温情と考えているのは自分や上級生だけで、当の一年にとっては、7時雨天の代わりにグランドを走らされるだけで、自分を「ウザい先輩」と定義づけるには十分だったのだ。なおかつ、"殴りはしない"という部分にも、昨日の大立ち回りでケチがつき、いよいよ、一年に自分を庇う動機などなくなった。目を瞑らせるのは卑怯だからと、目を開けさせた小倉の美学なぞ、殴られる側からすればどうでもよく、ただハッキリ小倉への憎悪をかき立てる結果にしかならなかった。先輩や同級生と溝を作り、そしてその分一年に慕われた訳でもなく、教育係相当の嫌われ方をした自分。たった1人、自分の、自分だけの正しさに従って、そして一人ぼっちになってしまった自分。滑稽だ。何て滑稽なんだろう。自分は一体、何と闘ってきたのか……
何が青い春なんだ。何が青春だ。キラキラ輝く人生最良の時間、世間でそんな風に言われてるから期待してみりゃ、その結果がこれか。まったくもってゴキゲンだ。これが人生最良の時間なんだってんなら、俺は人生に未練なんかねえよ。もう全く、下らねえ。
逆光で表情の見えない“狸”の顔を見上げ、じん、と痛む鼻筋から無様に血を垂らし、床にポタポタとシミを作りながら。
小倉は内心呟いていた。
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《上田もちょっとは惜しがってたんやで?何せ二軍でのお前のホームラン16本もあったやん。左投げの弱肩やなかったら、旧チームからでもスタメンあったやろになって》
「やめろよ……」
《もう少し、頑固やなかったら、あげな事にもなってなかったのになぁ。勿体無いわぁ》
「やめろっつってんだろ!頼むからそんな話すんな……」
思わず怒鳴った小倉の呼吸は、ただ電話しているだけだというのに、やたらと荒くなっていた。胸がキリキリと痛む。他人の哀れな姿を見た時なんかよりよっぽどその痛みが強いのは、哀れでちっぽけな存在が、自分自身だからだ。もう二度とやり直す事のできない選択、それにしくじった惨めさが容赦なく自分を締め付ける。いくら積んだって、何をやったって、あの間違いは贖う事はできない。これから一生、ずっと。
気がついたら、小倉は泣いていた。勝手に涙が目からこぼれ落ち、部屋のカーペッ
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