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ソードアート・オンライン もう一人の主人公の物語
■■インフィニティ・モーメント編 主人公:ミドリ■■
壊れた世界◆生きる意味
第五十八話 仲間を敵に回す覚悟、自分の命を失う覚悟
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どね。もしあなたたちがクリアを阻止しようとするなら、最初の敵は私よ。私はあの世界に帰らなきゃいけない。何としてでも」

 それはミドリが最も聞きたくない言葉だった。ミドリは頭を抱え、テーブルに突っ伏した。仲間を敵に回すことと、自分の命を失うこと。どちらも重すぎて、ミドリの天秤では量れなかった。
「……百層をクリアしても、現実に戻れる保証はないんだぞ」
 テーブルに突っ伏したままミドリが苦し紛れの台詞を吐くと、シノンは冷ややかに切り返した。
「それは良かったわね。クリアを阻止する必要がなくなったじゃない。――問題はそこじゃないでしょ。逃げるのはやめないと、いつまでたっても本質を捉えられないわよ」
「……俺はもう、現実と向き合うのは疲れた。この世界に何も分からずに放り出され、やっと自分を見つけたと思ったのにもう死ななきゃいけないなんて。もう一体どうしたらいいんだか……」
 ついに弱音を吐き始めたミドリの頭を、シノンは優しくなでた。
「なにも正面から向き合わなくたっていい。もう私に言えることはないけど……ただひとつ、これだけは言っておこうかしら。――後悔、しないようにね。誰だって命はひとつしかないんだから。悩みぬいた結果が私たちとの対立なら、私はそれを受け入れる。その時は正面から相手してあげるわ。だからよく考えてね」
 ミドリのカップに新しくホットミルクを注ぎ入れ、もう一度ミドリの頭をぽんぽんと叩いてから、シノンはその場を立ち去った。後にはただ一人ミドリだけが残され、彼は頭を抱えたまま微動だにしなかった。



 その晩遅く、ミドリは自分の部屋に戻った。机に突っ伏していたストレアが顔を上げ、弱々しく微笑んだ。
「遅かったね。見捨てられたかと思ったよ」
「見捨てるもんか。お前と俺は仲間だろう」
 仲間といいながら、ミドリはシノンとイワンのことも思い出していた。ストレアも同じだったのだろう。彼女は乾いた笑い声を上げた。
「仲間の絆と自分の命――世界を守る使命って言い換えてもいいかもしれないね。どっちが大事なんだろう」
 ストレアの問いかけに対し、ミドリは返す答えを持たなかった。その代わり、ミドリは談話室でずっと考えて思いついた、ひとつの逃げ道を示した。
「なあ――ストレア。仲間の絆と自分の命を天秤にかける前に、ちょっと考えてみないか。俺たちがここで生きる意味を、さ。天秤にかける前に、その重さを知ろうじゃないか。漠然としすぎて、俺には自分の命の重さを量れないんだよ。遠回りしても、後悔しない選択をしたい。俺はそう思うんだ」
 ストレアはミドリをじっと見つめた。たっぷり十秒ほど見つめ合った後、彼女はゆっくりと頷いた。
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