第五章
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「お父さんまたお小遣いダウンよ」
「やれやれだな」
「悪いけれど我慢してね」
「わかってるさ」
こう答えるしかなかった、このことは彼自身が最もよくわかっていた、それでだった。
和田は席だけは家長の席だったがそこで妻に言いくるめられ娘達からはその姿をやれやれという顔で見られながら夕食を食べてだった。
妻と一緒に犬の散歩に行ってそうして歯を磨いて寝た、そして。
妻に朝早く起こされて一緒にジョギングをしてそれからシャワーを浴び朝食も食べてから出勤する、その時に。
妻から弁当を渡されてだ、キスをされて言われた。
「今日も頑張ってね」
「うん、それじゃあね」
毎朝のこの行事を経てだ、そうしてだった。
会社に入る、そこで仕事をしていると。
部下達がだ、その彼を見て彼らだけで囁くのだった。
「やっぱり渋いよなあ」
「ダンディよね」
「家庭でもああなのかな」
「絶対にそうよ」
渋いままだというのだ、これが彼等の予想だった。
「ああしてね」
「渋くか」
「格好よく過ごしてるのね」
「もう亭主関白でね」
今は絶滅したとさえ言われているこの人種だというのだ。
「奥さんははいはい」
「お子さん達は絶対忠義」
「そうした人っていうのね」
「だってあの渋さと無口さよ」
そして仕事も出来る。
「だったらね」
「今みたいにか」
「渋くウイスキーとかを飲んで」
「そうして過ごされてるんだな」
「絶対にそうよ」
家でもだというのだ。
「そうにl決まってるわよ」
「だよな、あの人だったら」
「家でも」
これが彼等の予想だった、しかし当の和田はというと。
仕事をしながら小遣いが減ったことを嘆いていた、しかも娘達の小遣いはアップされている。彼にとっては理不尽なことに。
しかも好きなビールではなくワインを飲むだけだ、ワインも嫌いではないが。
好きな酒も飲めずダイエットも強制的で好きな食べものも娘達最優先だ、その現状を思い。
内心溜息をつく、だがその彼を見てだった。
部下達はまた渋いだの格好いいだの言う、和田はその彼等に心の中でこう言った。
「実際は全然違うんだけれどな」
こう呟いた、しかしこの呟きは言葉には出さない。せめてツイッターをはじめてそこで呟こうかと思っている程度であった。
渋さの裏 完
2014・6・22
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