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渋さの裏
第三章

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「髪の毛も薄くなるし」
「お父さんの髪はまだふさふさだぞ」
「最近少なくなってきてない?」
「そ、そうか?」 
 今度は頭の上に視線をやる和田だった。
「まだまだ大丈夫だろ」
「気をつけてね、そこは」
「それと早く服着て」
 一番上の娘、大学生の彼女は最も嫌そうな顔であった。
「トランクス一枚で人前に出ないで」
「わかったよ、じゃあな」
「本当にうちのお父さんはね」
 妻も自分の席でやれやれといった顔であった。
「おっさんなんだから」
「お父さんはおっさんか」
「お腹も出て来たし」
「むっ、そうか?」
 和田は腹も見た、自分の。
「体重は標準だぞ」
「脂肪率はどうなの?」
「そっちか」
「気をつけてね、お酒の飲み過ぎにも」
「ビールとか日本酒もか」
「痛風や糖尿病は怖いわよ」
 今度は成人病の話だった。
「肥満は大敵よ」
「ううん、じゃあどうすればいいんだ」
「朝早く起きて走って」 
 ジョギングだった。
「あと夜はトムの散歩よ」
「犬のか」
「どっちも私が一緒に行くから」
「トムの散歩はママがしてただろ」
「だからママって言わないの」
 妻はその場でズボンをはく夫に言うのだった。
「これからは二人でよ」
「朝もか」
「早く起きてね」
「ジョギングしないといけないのか」
「付き合うからね」
「やれやれだな。しかし」
「しかしって?」
 妻は上着も着る夫に問うた。
「どうしたのよ」
「何でママ・・・・・・じゃなかった母さんも一緒なんだい?」
「そんなこと言うまでもないじゃない」
「言うまでもない?」
「そうよ。おっさんが朝早くとか夜に一人で歩いてたらね」
「駄目か」
「変質者に間違われるわよ」
 妻の言葉もきつかった、むしろ娘達以上に。
「ストーカーとか痴漢とかね」
「何でそんな風に思われないと駄目なんだ」
「最近はそうなのよ」
「一人でそうした時間に歩いてたらか」
「どんな時間でもね」
 そう認識されるというのだ。
「普通にね」
「嫌な世の中だな」
「だから私も一緒に走って散歩するからね」
「ママと一緒か」
「ママじゃないでしょ、とにかくいいわね」
「ああ、健康の為にか」
「朝晩ね。実は私も結構気になってきたから」
 妻自身も、というのだ。
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