第三章
[8]前話
「こうした問題が起こるとは考えていたかね」
「いえ、申し訳ありませんが」
松中は眉を曇らせて宮田に答えた。
「とても」
「そうだな、この事態は私もな」
「総理もですか」
「想定していなかった」
宮田も難しい顔で返す。
「とてもな」
「そうですね、まさか」
「クローンとはいえ自分が処刑される有様を聞いてな」
「それによってですね」
「本人が欝になり精神を病んでな」
「死ぬとは」
こうした事態になるとは、というのだ。
「全く考えていませんでした」
「自分自身は死なないがな」
「クローンとはいえ自分が死刑になると」
「精神的にくるものなのですね」
「そうなのだな」
「では総理、この法は」
「一から考えなおすか」
自分の席で腕を組み座って言うのだった。
「死刑についても」
「そうされますか」
「いい法案だと思ったがな、私も」
「私もそう思い総理にお話して法案として提出し各議員に働きかけて成立させましたが」
それでもというのだ。
「思わぬ状況になりましたね」
「本当にな、これでは本人を死刑にすることと同じだ」
「身体を殺さず心を殺すのですから」
そして死に至らしめるからだ。
「これではです」
「死刑と全く変わらない」
「そうなりますね」
二人で難しい顔で話すのだった、そしてこの制度は国会で再び議案となりそのうえで廃止された。死刑制度は一から語り直されることになり延々と続くことになった。
死刑 完
2014・8・25
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