第四章
[8]前話
「領地に兵にと」
「では」
「やがては」
三人共、というのだ。
「戦乱が終わった後のあの方々は武と力、それに野心がある故に」
「逃れられませんか」
「はい、しかしです」
ここで張良は蕭何をあらためて見て言った。
「蕭何殿、貴方はです」
「逃れられますか」
「領地もお三方程多くなく」
それにというのだ。
「兵も野心も持っておられませぬ」
「それ故に」
「皇帝になりたいですか」
蕭何は、というのだ。
「如何ですか」
「いえ、全く」
蕭何は張良の言葉に素直に答えた。
「その考えはありませぬ」
「そうですね、ですから」
「疑われても」
「その行い次第で避けられます」
劉邦の猜疑から来る刃は、というのだ。
「貴方の周りには貴方を気遣う方々がおられますので」
「そうした人の話を聞いて」
「お逃れ下さい」
こう蕭何に言うのだった、そして。
蕭何にその信頼すべき者達の名を教えた、蕭何はここまで聞いて張良に対して深々と頭を下げて言った。
「有り難うございます、これで何とか助かりそうです」
「その為にいささか汚名を被っても」
その信頼すべき者達の進言によってだ。
「お逃れ下さい」
「わかりました」
蕭何は張良の言葉にも頷いた、そして。
実際に韓信達は次々と劉邦に粛清されていった、三族を皆殺しにされるという無残な末路を迎えていった。
だが蕭何は何とか生き延びた、わざと悪政を敷いたり財産を国庫に入れたりあれこれと苦労しながらもだ。彼は天寿を全うできた。
このことには張良の進言があった、彼はそれにより助かった。しかし彼はこのことを口外せず張良は何も言わなかった。
張良は稀代の軍師と言われ劉邦に様々なそれこそ人の道に外れる様な策も進言した。しかしその暮らしは質素でありしかも風貌は女性の様だったと伝えられている。彼こそが真の軍師と言うべきであろうか。
軍師 完
2014・6・27
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