第五章
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「私はお父さんと夜も過ごすの?」
「それは」
「あなただからなのよ」
夫である彼だからだというのだ。
「そういうことはないでしょ」
「それはかなりね」
「私はあなたといたいから」
「お義父さんじゃなくて」
「私の旦那様はあなただけよ」
「お義父さんじゃないんだね」
「お父さんはお父さんよ」
父親でありだ、間違っても夫ではないというのだ。これは言ってしまえば当然のことであるが雅はあえて言ったのだ。
「だからね」
「お義父さんにはならずに」
「あなたとしてね」
「僕であり続けて」
「修行していってそうして」
そのうえで、というのだ。
「あなたはこのお寺の住職さんになればいいのよ」
「そういうことなんだね」
「お父さんはお祖父ちゃんを見ていたけれど」
それでもだというのだ。
「お父さんであり続けてるし」
「僕もっていうんだね」
「若しかしてね」
ここでだ、妻は夫にこうも言った。
「婿入りしたこととかは」
「そう言われるとね」
「気にしているのね」
「そうかもね、やっぱり」
蒼弥は婿入りである、こうしたことは寺や神社ではよくあることだ。天理教においてもざらである。
「このお寺で生まれ育っていないし」
「それは気にしなくていいから」
別に、というのだ。
「だってあなたは私の旦那様でね」
「このお寺の子なんだね」
「そう、私の旦那様だから」
そうなるということをだ、雅は蒼弥に話した。
「そんなことは気にしなくていいのよ」
「少し。気にしていたかな」
「だったらもうこれから気にしなくていいから」
雅は夫に顔を向けたまま優しい声で告げた。
「あなたはあなたでいてね」
「無理をせずに」
「あなたの色を出していけばいいのよ」
「そうして修行していけばいいのね」
「お釈迦様も皆も見ていてくれてるわ」
蒼弥、他ならぬ彼をというのだ。
「だからね」
「僕として修行をしていって」
「読経も写経も。木鐸を叩くことも」
その全てというのだ、無論他の修行も。
「お義父さんみたいにしなくて」
「僕のやり方でいけばいいね」
「あなたも修行してきたでしょ」
それこそ物心ついた時からだ、彼もまた寺で生まれ大学でも僧侶の資格を取って来たからだ。そしてその頃の彼は。
「大学の時はあなただったわよ」
「僕としてやっていたんだね」
「お義父さんも知らなかったから」
「じゃあ僕の動きに戻って」
「あなたとして修行していってね、私もずっと一緒にいるから」
「雅さんは僕だからなんだね」
「また言うけれどお父さんはお父さんよ」
このことは絶対だった、雅の中では。
そしてもう一つの彼女にとって絶対のことをだ、夫に言った。
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