第一章
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技には技で
若きムエタイ選手であるホア=マサネットは試合後の己の控え室において苦い顔をしていた、そうしてだった。
セコンドであるインタウ=アッチャラーン、かつて伝説的なムエタイチャンピオンだった彼にこう問うたのだった。
「一つ聞いていいかい?」
「今日の試合のことだな」
インタウも応える。
「相手のな」
「ああい、あいつな」
相手のチャオ=タラーティーのことを言うのだった。
「何だよ、あの技」
「凄い蹴りだったな」
「あんな蹴りは見たことがない」
率直な感想をだ、ホアは己の席に座って言った。
「本当にな」
「あの蹴りに負けたな」
インタウもだ、その大柄でまだ逞しい顔で言うのだった。ホアの髪は短く刈られているが彼の頭には髪の毛は一本もない。
「そう言うしかないな」
「全くだ、ずっと負けたことがなかったのにな」
これまでのホアはまさに不敗のチャンプだった、デビューしてから連戦連勝だった。ところがそれが、だったのだ。
「それがな」
「お客さんも驚いてたな」
「そりゃそうだろ、無敗のチャンプが負けたんだ」
自分でも言うホアだった。
「しかも絶好調だったのにな」
「確かにな」
インタウもホアに対して言う。
「今日の御前は絶好調だった」
「負ける筈がなかった」
「しかしその御前が負けたからな」
絶好調だった不敗のチャンプがだ。
「お客さんも驚く筈だな」
「全くだ、しかしな」
「あの蹴りだな」
「あの蹴りにやられた」
ホアは苦い顔でインタウに話した。
「実力はな」
「あいつも強かったがな」
「ああ、それでもな」
「御前の方が上だった」
実力自体はというのだ、ムエタイのそれは。
「しかしな」
「あの蹴りがだな」
「強かった」
それも相当にだ。
「だから御前は負けた」
「あの蹴りにだな」
「それでどうする」
インタウはホアを見据えて彼に問うた。
「一体」
「決まってるだろ、それは」
にやりと笑ってだ、ホアはインタウに返した。
「もうな」
「再戦か」
「ベルトは俺のものだ」
敗れて奪われた、しかしというのだ。
「奪い返してやるさ」
「勝ってだな」
「あの蹴りを破ってな」
まさにだ、そうしてというのだ。
「やってやるさ」
「あの突きの蹴りをだな」
「それも何十も出すな」
流星の様にだ、その繰り出される突きでだったのだ。彼は敗れたのだ。
そしてその蹴りに対してだ、彼は言うのだ。
「それを破ってやるさ」
「そのうえで勝つな」
「絶対にな、じゃあ今日からな」
今しがた敗れたばかりだ、だがそれでもだった。
「トレーニングだ」
「もうか」
「ランニングとスパーリングをな」
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