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片方ずつ
第一章
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第一章

                     片方ずつ
 押しも押されぬ存在だった。大リーグにおいてまさに。
 リチャード=シモンズは一年目でいきなりメジャーにあがり二十勝を挙げた。それからも順調に勝利数を稼ぎまさに絶対のエースであった。 
 彼がいるそのチームは優勝も夢ではない。そうした意味でまさに優勝請負人とまでなっていた。その彼の横には愛する妻がいた。
 彼女の名をエリーという。夫と同じアフリカ系であり夫と同じオハイオ出身である。ニューヨークに出て学生をしていたがそこで球場で勝利の雄叫びを挙げていたリチャードを見て一目惚れしたのである。
 球場を引き揚げる時に声をかけてきた彼女にリチャードの方も惚れた。そうしてあっという間に結婚まで至ったというわけである。
 こうした巡り合わせだったが彼女はいい妻だった。家事は得意でとりわけ料理がだった。何と栄養にまで細かく配慮してくれたのである。
「魚のムニエルか」
「それとフルーツサラダね」
 それを朝食に出してきたのである。そしてそれとトーストであった。そして飲み物は白いものであった。それが何かというと。
「あとはこれ」
「ミルクかい?」
「違うわ。豆乳よ」
 にこりと笑って夫に答えてきたのだった。
「豆乳よ、これは」
「豆乳!?」
「日本人がよく飲んでるの。大豆から作った飲み物なのよ」
「っていうと豆腐みたいなものか」
「そうよ。そう考えればいいわ」
 そうだというのである。
「身体には凄くいいから」
「そうか。それじゃあな」
「あと野菜ジュースもね」
 それもあるというのだった。
「毎日飲んで。豆乳もね」
「身体にいいからだよな」
「そうよ。リチャードはエースじゃない」
「まあな」
「だったら健康には気をつけないと」
 微笑んでの言葉だった。見ればその野菜ジュースも出してきていた。
「食べ物からね」
「そういや今までそういうの考えたことなかったな」
 妻に言われてはじめて気付いたことなのだった。
「朝は大抵な」
「何食べてたの?」
「適当なの食ってたな」 
 そうだったというのである。実は朝食はかなり軽く見ていた。試合の後はバーでとことんまで飲んでそのうえで遅くまで寝ていたのである。それが彼のこれまでの生活だった。
「あとは肉ばっかりだったな」
「それがよくないのよ。お肉も悪くないけれどね」
「それよりもか」
「そうよ。野菜とかお魚をどんどん食べて」
「日本人になった気分だよ」
 そんな妻の話を聞いてぼやいた言葉だった。
「それじゃあ」
「そうよ。日本人でいいのよ」
 ところがエリーはこう返してきたのであった。
「日本人みたいにね。お野菜とお魚を多く食べて」
「それでこの豆乳と野菜ジュースを飲んでか」

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