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滅ぼせし“振動”の力を持って
彼と家出の訳
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わわわ!? ま、ちょま、まって! ちょっと待っ―――」
「ナー」
「……へっ?」


 だが振り向いてみれば海堂はおらず、代わりにちょっと濡れているイナホの胸に抱かれた子猫と、子猫に興味深々なコダマ、そして猫のマークが描かれている粉ミルクの容器を持ったアズキが居た。


「じゃあ、まずはミルクの準備するか! 春恋、キッチン借りるぜ」
「ええ、遠慮なく使って、アズキさん」
「ではわし等は出来上がるまで戯れるとするかのぅ」
「そうですね」
「あ、ずりぃ! 早くしねぇと……っ!」


 雰囲気が固く怖く、男勝りでかっこよかろうと、やっぱり女子である為か互い可愛いモノ好きな二人は、大好物を置かれた子供の如く目を輝かせている。

 相変わらずだと笑いながら、この子猫の詳細について聞くべく、春恋はイナホへ一歩近寄った。


「この子どうしたの?」
「アマノハラの麓に捨てられていたんです。土砂崩れに気をつけるようにと、先生方が言っていた事を思い出したので……」
「だからまずは体を温める為に、ミルクを持って居そうに二人に声を掛けた、って訳ね」


 ある程度ミルクを飲み終えて、コダマのもとへと飛び込んで行ってじゃれつき、かと思えばアズキの胸へとダイブし、子猫は自由気ままに遊んでいる。
 体調の不良などは、特になさそうだ。


「それで、コレからどうするの?」
「晴れるのを待ってから、好きにさせようと思っています。猫は自由な生き物ですし」


 それでも少しはここで飼いたいと言う気持ちがあるのか、イナホは寂しそうな表情を浮かべて、子猫を見つめていた。


 と―――猫の所為でちょっと忘れ気味だったが、そう言えば何時も一緒に帰ってきている海童が居ないと、春恋は首をかしげつつもイナホの方へと声を掛けるべく横を向く。


 だが……声を出す前に、静かに扉が開いた。


「……ただいま」
「へ?」


 唐突かつ唐突である海童の帰宅に春恋は反応できず、彼の姿をも駆使してからようやく腕を掲げ、なんとか自身の手が届く範囲の下着類を隠す。

 しかし、海童は何の反応も見せずに子猫の方を見やり、興味なさげに数秒で視線を反らし、無言でロフトへ上がるとすぐさま着替え、タオルを持って再び玄関に戻った。


「ハル姉……夕飯、勝手に食っといてくれ。俺はいらねえから」
「え? えっ?」
「じゃあ、行ってきます」


 それだけ言うと未だ雨の降り続く外へ向かい、天気に構わず小走りで出て行ってしまった。


「……洗濯物に無反応なのは予想してたけど……なによ、晩ご飯は要らないって……オマケになんか冷たい態度だし」
「……」
「イナホちゃん? どうし―――……イナホ、ちゃん?」
「……
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