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クルスニク・オーケストラ
第十二楽章 赤い橋
12-3小節
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てる。

『身勝手で申し訳ありません。でもわたくし、分かったんです。例えわたくしが死んでも、わたくしの意志を継いでくださる人がいれば、何も潰えたりすることはないって。わたくしにとってそれが誰かを考えた時、室長しか思いつきませんでした。だって、わたくし、貴方のこと――』

 だめだ。本能レベルで思った。ジゼルから「それ」を受け取ってしまったら終わってしまう。俺たちが――ずっと《4人》でバカみたいに楽しく過ごしていた俺たちの《世界》が終わってしまう。

 終わってしまうのに。

 お前は残酷なほど潔く、「それ」を告げるのか。ジゼル。



『あなたがあるいてくるだけで、うれしかった。あなたと、こえをかわすだけで、たのしかった。あなたが、わらってるだけで、しあわせでした。さようなら、ユリウスせんぱい。――――だいすきでした』



 一生に一度。わたくしから他者へ刻む《レコード》を、打ち明けた。

「さようなら、ユリウスせんぱい。――――だいすきでした」

 室長の《レコード》は頂くまでもございません。わたくしの心に、強く刻まれているんですもの。

 だから室長もわたくしを覚えておいてください。今日まで身を粉にして尽くしてきたんですもの。そのくらいの退職金は頂いてもよろしゅうございましょう?

 電話を切った。言うべきことは全て言いました。
 これでこの体が駆動する最後の言い訳まで失ってしまったわね。

「ジゼル、メガネのおじさんが好きだったの?」
「そうですよ。認めたのはたった今ですけれどね」

 夕暮れのオフィス。他愛ない話をした自販機の前。並んで帰った夜の道。何かにつけては集まった家での飲み会。サインのクセ。ぜんぶ、まぎれもない、ジゼルだけの思い出。ジゼル・トワイ・リートだけの記憶(レコード)が出した答え。

 受け取ってください。これがわたくしが《わたくし》と《ヴィクトル》から受け取ったバトン、そして貴方に渡す命のバトンです。
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