暁 〜小説投稿サイト〜
お嬢様と執事
第五章
[2/2]

[8]前話 [9] 最初 [2]次話

「どう?遊園地でも」
「遊園地だね」
「いいかしら。それか映画館か」
「どちらでもいいよ」
 穏やかな声で彼女の提案に答えた。
「里佳子さんがいいところにね」
「そう。それじゃあ映画館にしましょう」
 里佳子の案で通った。といっても彼女だけが提案して正人は何も言ってはいないが。実は女の方が強いカップルであったりするのだ。なお二人は同じ歳である。
「それでかしら」
「いいよ。それじゃあそれでね」
「うん。じゃあそういうことで」
 笑って電話の向こうで頷く。話が終わると里佳子は彼に別れを告げて電話から消えた。電話が終わると正人はまた疲れた様子を見せるのであった。
「まあとにかく」
 その疲れた声で一人呟く。
「お嬢様の我儘とはまた別だし。頑張るか」
 そう呟いてデートに思いを馳せる。彼は紗智子の我儘に耐えながらデートに備える。そしてすぐにそのデートに日になるのだった。
 黒く長い髪を後ろで一つに束ねたほんわかした感じの白い顔の大人の女性だ。優しげな目元が美しい。目だけでなく口元も整い身体全体にほのかな色気を漂わせた美人だ。服は白い丈の長いワンピースで包んでいる。白が似合う女の人だ。彼女が里佳子である。
「お待たせ。待ったかしら」
「ううん」
 にこりと笑って里佳子に答える。実は三十分遅れだがそのことは言葉にも出さない。しかし妙だとは心の中で思ってはいた。
(どうしてなんだろう)
 彼が不思議に思うことは里佳子が遅れたことについてだ。実は真面目な性格で時間に遅れることはない。しかし今日は遅れてきた。それが不思議なのだ。
(まあいいか)
 しかしそれについて考えるのは止めた。そうして彼女とのデートをはじめるのだった。
 デートをはじめてみると里佳子の我儘はいつもよりも酷かった。酷いというよりはいつもはおしとやかで正人を立ててくれるのに今日は違っていたのだ。あれが食べたいこれが欲しいと次から次に言うのだ。
「ハンバーガーが食べたいわ」
「缶ジュース飲みたいの」
「あっ、あのネックレス買って」
「ちょっとコンビニ寄らない?」
「うん、いいよ」
 その我儘に全部応える。しかしその我儘がどれもチープなものでありしかも彼女が普段あまり入らない場所にばかり入るので正人はそのことを不思議に思う。だがそれもやはり何も言わず彼女に合わせる。合わせているうちに何時の間にかメインの映画館も終わり帰り道に入った。すっかり暗くなった帰り道を二人で歩いていると不意に携帯が鳴るのだった。
「はい」
「私ですわ」
 紗智子の声がした。
「すぐに来て欲しいのですけれど」
「何でしょうか」
 それを聞いて紗智子に問うた。内心また我儘かと思ったがそれは出さない。ただ問い返しただけである。

[8]前話 [9] 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ