赤の少女が求めしモノは
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ていなかった。
袁家が勝とうが負けようが、夕が生きていない世界は、彼女にとって意味が無い。
自分が信じる彼女はどう動く。
自分の知っている優しい彼女を信じるなら、自分は彼女を救うために動くべき。
心か、命か、どちらか選べ。自身に突き付ける自問自答に、もう嘘は付かなかった。“例え彼女に憎まれようと、彼女が生きていればそれでいい”。
顔を上げて、涙を零して、笑みを浮かべる事無く……明は子供のような泣き顔を秋斗に向けた。
「……秋兄……助けて……っ……」
憐憫と同情が渦巻く黒瞳に憎悪は無く、ゆっくりと歩み寄った彼は、
「言ったろ? 例え俺しか賛同しなくても、大切なもんを助ける為に力を貸すってな」
赤の少女に、微笑みを向けてグシグシと頭を撫でた。
縋り付いた明はそのまま泣き崩れ……秋斗は覇王と視線を合わせた。
「……俺は客将だが正式な曹操軍じゃない」
「それで?」
鋭い視線は威圧をあらんばかり突き付け、冷たい光は彼を責め立てる。命を散らすほどの覚悟があらんや、と。
彼がこれから行うのは、雛里の事も、詠の気持ちも、月の想いも……全てを無視した自分勝手なわがまま。
ただの予想程度に命を賭ける。愚かしく、度し難い。
――俺が戻れる可能性に賭ける。そして作りたい世界の為に必要なモノを手に入れる。
だが、彼が一番しなければならない事で、彼自身も一番したい事。
「俺が勝手にやることだ。袁家を騙す為に烏巣に向かわせるなら張コウ隊に旗を持たせるだけでも十分だろ。こいつは道案内に連れてく。月光に二人で乗るのが一番早くて確実だろうし……止める気なら、誰かを殺してでも推し通らせて貰おうか」
にやりと笑いながらの脅しに等しい言い分を受けて、華琳は薄く笑った。
朔夜も詠も、悲痛に顔を落ち込ませて涙を零す。止めても聞かない男だと知っているから。
利を考えての行動では無く、それでも命を賭けるに足る戦いだと信じて身を投じるモノを、誰が止められよう。
重苦しい空気が場を支配する中、二人の視線が絡み合い、どちらとも無く目を伏した。
「そう……じゃあこう言ってあげましょう。生きて帰って来い、徐公明。“あの子の笑顔を手に入れる為に”。そして……“世に平穏を”、ね」
微笑んだのは同時。互いがする事も分かっている。何が欲しいかも、何を作り上げたいかも。
「……ありがと。じゃあ行ってくる。そっちは任せた、覇王殿」
「私を誰だと思っているの? あと、月光に命じる事はしてあげない。自分の力でやりたい事を遣り遂げてきなさい」
これ以上の言葉は要らないとばかりに踵を返した秋斗は、明を支えながら春蘭と霞の横を通り過ぎ様、
「帰ったら酒だな」
「不味い酒は勘弁
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