赤の少女が求めしモノは
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うになかった。
――ねぇ秋兄。秋兄なら、そうするよね?
ふいと、一寸だけ秋斗を見やるも、そのまま固まる。
彼は明の事を見ずに、推し量るように片目を細め、華琳を見ていた。
「……張コウ、あなたに絶望をあげましょう」
凛……と鈴が鳴るような音で、たおやかな声が紡がれる。
自信に溢れるその声を耳に入れて、桂花はするりと明の胸倉から手を離した。幾多も涙を流しながら、そのままペタリと床に膝を付いた……覇王が切り捨てようとしているモノを、理解して。
「田豊の命。私としてもそれは欲しい所なのだけれど……本陣から離れるとなれば袁家の本隊の対応に残りの全兵力を注ぎこむ為に救出は向かわせられない。戦の勝利が先決なのだから、そんな無茶をする義理も無い」
「じゃああたしが……」
「ふふ、バカなことを……袁家を裏切ると言うのなら私の部下になるという事。当然、あなたには烏巣の襲撃に向かって貰う。そして嘘をついていたのなら……その場で殺してあげる」
引き裂いた口。見下しの視線。叩きつけられる覇気は、誰もに生唾を呑み込ませる程に強大。
覇王は敵には容赦しない。例え才多くとも、覇道を邪魔するのなら切り捨てるのみ。
夕が離れているのなら、助けに向かう気などかけらも無い。曹操軍の置かれている状況は厳しいモノがある為に、華琳は桂花の望みでさえ切り捨てた……そう明は思う。
――あたしは夕を信じてるもん。あの子の策をやり通した上で、夕も無事に生き残れるって信じてみせるし……
抜け殻のような体を装いながら、明は口を開こうとした。尚も演技を続けようとした。
しかし……黒が、笑みを深めた。
「なぁ、張コウ。そろそろ茶番は止めようか」
真名を呼ばず、親しげであるのに前よりも遠く感じる言い方。やはり違和感があった。
向けられる瞳は濁り無く、明が直視するには綺麗過ぎた。まるで別人と話しているような、そんな感覚。
「曹操殿は状況を見せた。荀ケ殿は田豊個人を見せた。俺は……お前さんの中にある真実を見せよう」
曖昧な発言は相手に思考を詰ませる彼の常套手段。理解は出来ない。これから何を話すのかも、分からない。
華琳だけが、秋斗が自分の予想通りに合わせた事が嬉しくて、内心で笑みを深めた。
「俺が袁家の立場なら、田豊と張コウは曹操軍に勝った上で殺す。張コウの裏切りが成功した時点で、烏巣に来た張コウを暗殺しようと手を打つだろう。だが、問題は田豊」
彼を優しいと誰もが言う。こと戦に於いては、誰よりも残酷になれるというのに。
特殊兵器での効率を優先する彼が、袁家の手段程度を……悪意を読み切れないわけがない。
歴史をある程度知っていれば、人を苦しめる方法も、利を得る為の判断も、異質な視点から見極め
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