第3部 始祖の祈祷書
第5章 工廠と王室
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て、クロムウェルはワルドの憶測を否定した。
「あの男は、決して裏切ったりはしない。頑固で融通が利かないが、だからこそ信用できる。余は魔法衛士隊を率いていた、君の能力を買っているだけだ。竜に乗ったことはあるかね?」
「ありませぬ。しかし、私に乗りこなせぬ幻獣はハルケギニアには存在しないと存じます」
だろうな、と言ってクロムウェルは微笑んだ。
それから、不意にクロムウェルはワルドの左腕を見た。
「子爵、気になっていたのだが、その左腕はどうした」
「強敵との戦いの際、失いました」
クロムウェルは驚いた顔をした。
「君ほどの実力をもってしてか?」
「はい。彼は白い服に白い肌、白い仮面を有しており、その実力はスクウェアメイジを遥かに凌駕しておりました」
「なんと……その様な者が……」
クロムウェルは驚愕した。
「当初、我々に有益であると判断し、こちらに引きこもうとしまししたが、ダメでした」
「そうか…」
クロムウェルは顎に手を添えた。
少しして、不敵な笑みを浮かべた。
「しかし、いくらスクウェアクラスを凌駕していようとも、一人でこの我々を止めることは不可能だ」
「左様でございます」
ワルドは頭を下げて言った。
「こちらに引き込めなかったのは非常に残念だが、問題はあるまい」
「そうですな」
ワルドも頷いた。
この考えが、後にウルキオラの力を過小評価していたことを、二人は知ることとなる。
一方、こちらはトリステインの王宮。
アンリエッタの居室では、女官や召使が、式に花嫁が纏うドレスの仮縫いでおおわらわであった。
太后マリアンヌの姿も見えた。
彼女は、純白のドレスに身を包んだ娘を、目を細めて見守っていた。
しかし、アンリエッタの表情は、まるで氷のよう。
仮縫いのための縫い子たちが、袖の具合や腰の位置などを尋ねても、あいまいに頷くばかり。
そんな娘の様子を見かねた太后は、縫い子たちを下がらせた。
「愛しの娘や。元気がないようね」
「母様」
アンリエッタは、母后の膝に頬を埋めた。
「望まぬ結婚なのは、わかっていますよ」
「そのようなことはありません。私は、幸せ者ですわ。生きて、結婚することができます。結婚は女の幸せと、母様は申されたではありませんか」
そのセリフとは裏腹に、アンリエッタは美しい顔を曇らせて、さめざめと泣いた。
マリアンヌは、優しく娘の頭を撫でた。
「恋人がいるのですね?」
「『いた』と申すべきですわ。速い、速い川の流れに、アンリエッタは流されているような気分ですわ。全てが私の横を通り過ぎてゆく。愛も、優しい言葉も、何も残りませ
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