第七章
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第七章
「深田殿は私から一本取りましたね」
「そのことですか」
「はい、そのことです」
こう彼に話していく。弓をさらに引き絞っていく。今まさにそれを放たんとしていた。
「それで考えが変わったのです」
「それでは今はどの様に御考えなのですか?」
「深田殿から一本取りたいのです」
全く逆であった。それを告げたのだ。
「それで宜しいでしょうか」
「私から一本ですか」
「深田殿は二十歳になられますね」
「そうです」
年齢のことを尋ねられて素直に答える。
「今年でそうなります」
「奥方もおられませんね」
「残念ながらまだ一人もいません」
このことも素直に答えた。実はかがりの父も妻は一人だ。やはり五千石でも妾を持つ様な余裕がないのである。やはり何かと台所事情が苦しいのだ。
「それが何か」
「私は十六です」
かがりは今度は彼女の年齢を話した。
「年齢は釣り合っています」
「それはそうですね」
「では約束して下さい」
きっとした顔になって深田に告げてきた。
「若し私が一本取ったその時は」
「どうされるというのですか?」
「結婚して下さい」
こう言うのである。
「それでいいですね」
「結婚ですか」
「お互い武門の家として。いいではないですか」
「はあ。そうですか」
それを聞いた深田は少し戸惑った。しかし首を傾げさせてそれを元に戻してからかがりのその問いに対して答えたのであった。その答えは。
「一本ですね」
「それでいいですね」
「わかりました。それでは」
こうしてであった。かがりはまず深田から一本取るころになった。だが問題は何で一本取るかということである。そして彼女が選んだそれは。
「馬で御願いします」
「馬ですか」
「はい、馬で」
馬術であった。それを選んだのである。すぐに馬を用意してそのうえで走りだす。江戸を少し出てそれで道を走っていくのであった。
かがりはこれまでになく馬を飛ばした。その速さはかなりのもので彼女にしては最高の速さであった。だがそれでもなのだった。
深田はその横についてきていた。そして彼女の馬を追い抜いた。かがりのことをよく知っている江戸の町民達は見物に来ていたがそれを見て唖然となった。
「おいおい、男姫を抜くか」
「今度もかい」
「相変わらずやるねえ」
町民達の中には武士達もいる。だがその彼等もまた驚きを隠せなかった。
「凄いものだな」
「全くだ」
「あの馬術はな」
「かがり殿の馬術も見事なのだが」
それも認められる。しかしであった。
深田の馬術はそれ以上であった。彼はかがりのそれをあっさりと抜いてである。そのまま駆け去っていこうとさえしていたのである。
これで勝負あった、誰もがそう思った。
「また勝ったな、
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