第三章
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第三章
「私は自分から喧嘩は売りませんし」
「そんなことを言っているのではないっ」
「そうですよ」
両親はさらに怒った。
「全く。御前もだな、そろそろ嫁に行くことを考えてだな」
「もう十六ですよ」
この時代ではもう嫁に行く歳である。しかし当のかがりはというと。
「私は嫁になぞ行きませんよ」
楽しそうに笑ってこう言うのであった。
「自分より強い殿方以外には」
「またそんなことを言うのか」
「いい加減にしなさい」
両親はすぐに彼女の今の言葉を叱った。
「全く。嫁にも行かないでそんなことをしてだ」
「何を考えているのよ」
「ですから私は武家の娘です」
ここでまた胸を張って話す。
「武家の娘だからこそ武を窮めなくて何だというのですか」
「戦国の世でもあるまいしそんな理屈があるか」
父はまた彼女を叱った。
「ふざけたことばかり言う」
「別にふざけてないですよ」
「いいや、ふざけているようにしか聞こえん」
また言うのであった。
「そんなことで権現様の祖父殿清忠様から公方様の御家を御守りしてきた梅井家のだな」
「ですから。武をですね」
「どうしてそんなに我が侭を言うのだ」
父も母もこんな調子でいつも叱っていたが彼女は相変わらずであった。道場にばかり通って町中で絡んできたごろつき達をのす毎日だった。その腕は確かなもので剣術も柔術も弓術も免許皆伝となった。馬術に水術も相当な域にまで達したのである。
そんな彼女のことは江戸中で評判になっていた。そうして『梅井の殿様の男姫』として町を歩けばそう言われる日々を過ごすようになっていた。
そんな彼女の趣味の一つに道場破りがあった。とにかく滅法強く闘えば勝つ、それで今日も江戸のある道場の門をくぐるのであった。
「頼もう!」
こう門のところで叫んだ。門は大きいが質素なものである。そこから見えるその中も広いが実に質素で質実剛健なものをそこに見せている。
その入り口で叫んでだ。人を呼ぶのであった。
「誰かおられぬか!」
「何か」
出て来たのは若い男であった。長身だが細面であり白い顔をしている。眉は細く目も涼しげで何処かなよなよとした感じを受ける男であった。服は藍染めの質素な上着と袴である。それが実に道場の人間らしく見える。しかしそう見えるのはあくまでその服だけだった。
その男が出て来てだ。そのうえで彼女に対してきたのである。
「御用でしょうか」
「勝負しに参った」
その男にこう返したのである。
「誰かおられぬか」
「それでは拙者でよければ」
男は述べてきた。
「それで宜しいでしょうか」
「門人はおられぬのですか?」
「はい、今二十人程来ていますが」
このことも答える彼女だった。
「ですが。貴女のことは御聞きして
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