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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第五十五話 朱に染まる泉川(上)
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されている門数は定数以下ですからな。
〈帝国〉の師団砲兵に加えて砲兵旅団が展開しているのですからここで陣地を突破し、司令部を制圧。あとは後続部隊と主に制圧に移ればよい、我々に打つ手はありません。
ここは要塞ではないのだから、壕にこもり、白兵戦をつづけるしかなくなってしまいます、士気が続く限り、砲弾の雨に晒されながら何もかもをすり潰すのです」

「だが、そうなったら連中は追撃に兵力を回し、こちらを相手にすることはなくなる。
包囲に留めて龍口湾の軍団の拡充まで放置する」

「はい、参謀長閣下。ここで軍が壊滅するまで戦い続ける意義が薄い以上、泉川を放棄し虎城へ転進する方針に切り替えるべきです。近場の部隊に突破支援を命じるべきです、近衛の遅滞戦闘隊に支援を求め、突破の支援を求めます」

「――剣虎兵か、ならば夜間に乗じてといったところか?」

「はい、我々は重砲を破棄し西部へ突破します、河川を利用し負傷者と一部部隊を第二軍と合流させ、東州へと脱出させます。残りは大街道を利用せず、大隊規模で分散し、蔵原を目指します」

「危険ではないか?第三軍と合流する方が――」

「兵力の集中はかえって危険です。決戦の場を与えては重装備を喪失した分、我らが不利となってしまいます」
 草浪は並行して予てから考えていた方策を形としていく、出発点では関わりのないものを混ぜて一つの計画としていくことは彼の得意とするところだった

「より迅速に動けるよう分散し、小街道を利用して転進します。一時的な集合場所として集積地に――」
 そして彼は騙る、一国を救い、主君の欲望を叶える策を





同日 午後第五刻 泉川より西方十里 近衛衆兵混成団本部 
 新城直衛少佐


 休養を済ませた龍兵隊の大規模龍爆と二十二日に揚陸し、編成を終えた鎮定軍第二軍団の集中砲火による火力戦に持ち込まれた事でよって文字通り粉砕され、一日持たず龍州軍は二十五日には泉川の開囲支援を要請することとなった。
 ――もっとも、これは龍口湾で受けた龍爆の被害が砲兵隊に集中していた事を考えれば致し方なかったのかもしれない。
 後世の歴史家たちによる能力評価とは全く無関係に今を生きる者達は彼らの大量殺人の応酬の結果がもたらしたものに立ち向かわなければならなかった。とりわけ最も手近な場所――伏瀧川を渡らずに近衛総軍の残存部隊やら第二軍やらが逃げ出す時間を稼いでいた新城直衛率いる近衛総軍後衛戦闘隊は
「面倒極まりない、だが命令は下っている」
大隊長であり、(名ばかりだが)旅団長代理でもある新城直衛は幕僚達を前にしても常の口調を崩さずに面倒事を告げた。
「完全包囲された龍州軍を救うべくそこに駆けつける近衛。言葉だけならば麗しいものですな」
藤森が罵るように言った。
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