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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第五十五話 朱に染まる泉川(上)
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られるかもしれない。ファルケは笑みを浮かべた。彼にとって龍兵という概念は子供のようなものだ、〈帝国〉将校としての人生の半分以上をこの思いつきにつぎ込んできた。今、このひなびた島国でそれが実を結ぼうとしていることを、新たな戦争の幕を自身が開いている事を実感したからこその笑みであった。

 眼下の陣地線を見る。成程、多少は学習したのだろう砲兵陣地の一部は簡易な特火点のようになっており、龍爆でも叩き潰すのは手間であろうことは容易に見て取れた。だがすべてがそうなっているわけではない、多くはよくある砲兵陣地でしかない。つまりは龍兵であれば容易に観測でき、炸裂筒をなげこむことができる、これを優先して叩く。いつもの通りの仕事だ――



同日 午前第七刻半 東方鎮定軍第2軍団司令部
東方鎮定軍第2軍団 軍団長 アイヴァン・ルドガー・ド・アラノック中将


「成程――大したものだな、これは」
 アラノックは唸り声をあげた。それほどに龍兵の齎したものは圧巻であった。
先ほどまでの応射が目に見えて弱まっている。
「閣下、本格的攻勢にでる御許可を」
 参謀長たるラスティニアンは常の緊張した顔つきを崩さずに手筈を進めることを進言した。
「うむ、突撃開始、および第二陣の突撃用意。砲兵隊は主攻正面を除き砲撃を継続、一点突破を図る」
 ラスティニアンが将校伝令を呼びつけ第二軍団は本格的な攻城戦へと動き出す。
「伝令!」




 聯隊長が掩体壕からよろめきながらもしかと己の足で立ち上がり、鋭剣をふりあげる。
「突撃開始!目標敵防衛陣地、躍進距離2リーグ!皇帝陛下万歳!」

『皇帝陛下万歳!皇帝陛下万歳!』

 薄汚れた白の奔流が泉川へと迫り、彼らを覆い隠すように〈帝国〉砲兵の砲撃が続く。〈皇国〉軍陣地の反撃は弱弱しく、砲撃はさらに勢いを増す。銃兵達は顔をだすことすらできない。明らかに防衛陣地の稼働率は低下している。機能しているのはそれこそ友軍が砲弾を浴びることを恐れて砲撃を中止している突撃する聯隊の正面だけだ。
 だが擲射砲の砲撃はまばらであり、隊列を無視して駆ける猟兵たちを捉えるのはほんのわずかなものであった。
 
「ええか!あと1リーグだ!走れ!蛮族共の砲弾は走っとりゃあたらん!」
 中隊曹長が息をきらさずに激を飛ばす。
「走れ!はし――」
 曹長の言葉は突然途切れた――いや、引き千切られた。そして後方の兵共と共に体が無数の散弾で粉砕された。銃兵壕の後方に設置された平射砲を中心とする軽砲だ。
 最前衛の中隊が壊滅されても一個聯隊の奔流は止まらない。
二度、三度の斉射により聯隊は血を流すが、かれらは止まらない、後方では旅団長直卒の第二聯隊が吶喊を開始している。
 狂奔した男達はついに仲間の屍を踏み越えて100
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