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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第五十五話 朱に染まる泉川(上)
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る前線を眺め、アラノック中将は素直に感嘆した。一向に応射の精度が落ちる様子はない。
「成程、ラスティニアン。メレンティンと殿下が苦戦するだけはあると思わんか?
舐めてかかれる相手ではない」

「ですが常道の戦であれば敗ける事もない、その程度ですな」
 ラスティニアンも前線の様子を眺めながら言った。
 銃兵壕と雷壕の組み合わせはけして万全とは言えない、兵站拠点から近いこともあり十全な速度で進捗しているが、まともな攻城戦教官なら激怒するような雷壕の長さだ、銃兵壕から銃兵壕へと移動する為の物なのだが、銃兵壕に辿り着けず掩体もない雷壕に身を潜めているものもいる。
「急かねばならぬが――あれでは腰を据える必要があるだろうな。師団長に任せて我々は西進するべきかもしれん」
 現在の有様では一度に突撃に用いることができる兵力は一個連隊程度だ。まともな甲状腺であれば一万程度―― 一個旅団以上が当然である。
「――龍兵もそろそろこちらに来るはずです、陽が昇ってきましたので龍爆の精度も期待できます」

「成程そのようだな」
 アラノックの目に東方から飛来する点のような影が映った。それは徐々に大きくなってゆく。
「ならば、彼らに期待してみるとしようか、龍口湾のようにな」
 空を駆ける龍兵たちにアラノックは重たげな眼を向けた。



同日 午前第七刻 泉川上空
第1教導戦闘竜兵団司令 ヘルマン・レイター・ファルケ大佐



 苛烈な砲兵戦を真下に見下ろす。あの中には見知った者もいるのだろうがそれを想像することはない、彼らの役目は状況に対処することであり状況に感化されることではないからだ。

「成程、御大層に出迎えの準備をしていたわけだ――が、あまりこちらにかまけているわけにもいかんのでな」

 彼が引き連れる龍兵は約1,000騎、配下にある第一教導戦闘龍兵団総力をもってこの陣地を粉砕する、実に単純明快な作戦である。野戦龍巣場の設置を待たねばならなかったが、ここで追撃戦に参戦する事で〈帝国〉軍中枢ともつながりの深い本領軍に売り込みをかけることで自身と龍兵の栄達に足をかけることだって可能だ。帝族にして陸軍元帥であるユーリアは、けして自身の命を救い、龍口湾の戦略的大勝を齎した新参者をむげにあつかうような人物ではなかった。
彼女は傑物であり、歴史に名を残すことをごく自然に意識する産まれついての支配者である。そして、彼女が残す功績に龍兵の登用者という一文を付け加えることにけして悪い考えを持っていなかったのである。
そしてアラノック中将も人として良い評判を保っており、保守的な常道の将である――新規兵科である龍兵に懐疑的であるだろうが――それでも武勲を独占するような男ではない。
――むしろ眼前で赫奕たる戦果を挙げればそれなりの後押しを受け
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