第3部 始祖の祈祷書
第3章 始祖の祈祷書
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そんな風にしていると、テーブルに立てかけたデルフが言った。
「悪いか?」
「別に誰も悪いなんて言っちゃいねーさ」
デルフはかちゃかちゃと金属音を鳴らしながら、気分よく言った。
少しの間を後に、ウルキオラが本から視線を外した。
「デルフ」
「なんだ?」
デルフはいきなりウルキオラに話しかけられたので少し驚いた。
「お前は伝説の剣なんだろ?」
「いかにも、俺は伝説の剣だが…」
デルフはウルキオラが、何を思ってこんなことを言っているのかわからない様子である。
「お前は六千年生きてきて、誰かを守りたいと思ったことはあるか?」
ウルキオラが口にしないであろうこの言葉に、デルフは驚きながらも、質問に答えた。
「守るのは俺じゃねえ。俺を握ったやつが、誰かを守るのさ」
「そうか」
ウルキオラはそう言って本に視線を戻した。
「しかし、相棒がそんなこと言うなんてなんかあったのかい?」
「気にするな」
ウルキオラは感情の籠っていない声で言った。
その瞬間、近くに誰かがいるのを探査回路で捉えた。
「誰だ?」
ウルキオラが声をかけると、がちゃーん!と月夜に陶器の何かが割れる音が響き渡る。
「わわわ、やっちゃった……。また、怒られちゃう……、くすん」
シエスタはカップを一つ割ってしまったみたいである。
その声でウルキオラはその人物が誰だかわかった。
「シエスタか?」
月明かりに照らされて姿を見せたのは、アルヴィーズの食堂で働く、メイドのシエスタだった。
仕事が終わったばかりなのか、いつものメイド服だったが、頭のカチューシャを外していた。
肩の上で切りそろえられた黒髪が、艶やかに光っていた。
シエスタはしゃがむと、落っこちたカップの破片を一生懸命に拾っている。
「何の用だ?」
ウルキオラが声をかけると、シエスタは振り向いた。
「あ!あのっ!その!あれです!とても珍しい品が手に入ったので、ウルキオラさんにご馳走しようと思って!今日、厨房で飲ませてあげようと思ったんですけどおいでにならないから…」
あわてた様子で、シエスタは言った。
シエスタの隣にはテーブルとイスがある。
貴族専用の椅子である。
シエスタは、ウルキオラに座るように促されたので、遠慮しながらも、椅子に座った。
それからシエスタは、お盆をテーブルに置いた。
「東方、ロバ・アル・カリイエから運ばれた珍しい品とか。『お茶』っていうんです」
そんなもの、珍しくもなんともない。
シエスタは、ティーポットから、カップに注ぐと、ウルキオラに手渡した。
ウルキオラはそれを口に運んだ。
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