魔石の時代
第五章
そして、いくつかの世界の終わり5
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誰かが犠牲となるような世界を変えたい。そう願いながら、結局のところ自分にはそれを果たす事が出来ない。それを思い知ったのはいつだったか。随分と昔の事のように思えるし、つい最近の事のようにも思える。あるいはまだ思い知っていないのか。だから、今もまだ足掻いていられるのかもしれない。
だが、一つだけ言える事がある。あの日世界を救った代償として、自分は人間とは言えなくなった。不死の怪物に人の世界の未来など作っていける訳もない。自分にできるのは、目の前に立ちはだかる不条理を――その脅威を払いのける事くらいなものだった。滅びに曝された現在を守ることなら出来る。だが、その先に続く未来は他の誰かに託さなければならない。自分が使命を果たすためには、それを認める事から始めなければならなかった。それを認めるためにも、随分と時間を費やす羽目になったが。
ただ、認めてしまえば、それは別に大げさな事でも何でもなかった。それは敗北の証ではない。無力の証明でもない。誰にだって出来ることとできない事がある。自分が出来る事を果たし、出来ない事は出来るであろう誰かに託していけばいい。ただそれだけの事だ。それ以上でもそれ以下でもなかった。それを認めるまでに時間が必要だったのは――結局のところ、力への誘惑を振り切れていなかったのだろう。
認める頃には、自分は『奴ら』の力を――少なくともその一部を――自分のモノとする術を見出していた。その気になれば、『聖杯』の真似ごとも出来る。その確信を得られる程度には。というより、その領域に至って初めて気付いた。自分が望むままに世界を組み替えられる力を得て初めて。
結局のところ――それをやってしまえば自分は『奴ら』と何ら変わりないのだと。
それがその『力』の限界だった。我ながら間が抜けている。いや、そこで気付けただけまだマシだったのか。ともあれ、未来を誰かに託す術を求め始めたのはそれからの事だ。自分が最も長く戦場から離れたのは、その『術』が完成するまでの期間だったように思える。もっとも、それが完成してしまえば再び戦場に戻る羽目になったのだから、我ながら業が深いと言わざるを得まい。
未来を託すための術――そのために自分が作りだしたのは、一冊の魔術書だった。過去を伝え、叡智を伝え、誰かが生きた証を伝える。それが未来への希望となるように。その手段として、それ以外のものが思いつかなかった。
打ちひしがれ、それでも未来を求める者達に、自分が伝えられる限りのものを伝える。その為に生み出したその魔術書に自分は『写本リブロム』と名付けた。自らの半身であり相棒である魔術書『偽典リブロム』の写本。自分が受け継ぎさらに加筆を加えた魔法大全や、『神』の知恵の全てが――そして、歴代の読み手の生き様がそこには記されている。その魔術書の力を得れば、世界を作り
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