第六章
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第六章
「俺面白いことになりました」
「面白いこと?」
「同じアパートに住んでる看護士さんとですね」
頭の中にまた美奈子の顔が浮かんだ。その大きい口の美女である。
「今度結婚しようって話になって」
「付き合ってるのかい」
「付き合うようになったんですね」
それだというのだった。
「口裂け女について話してるうちに」
「また変わった付き合いはじめだね」
「ええ、全く」
まさか彼女がその口裂け女の話の元凶だとは言えなかった。それは彼女自身にも言っていないことだった。そういうことは隠しての話である。
「俺もそう思います」
「しかしいいことだね」
付き合っていることそれ自体はという藤熊先生だった。
「それじゃあ結婚したら」
「はい」
「幸せになるんだよ」
目を細めさせて悟志に告げた。
「いいね」
「わかってます、絶対に幸せになりますから」
悟志も笑顔で先生に応えた。
「将来はですね」
「将来は?」
「生まれた子供を阪神に入れます」
こんなことを言うのだった。
「絶対に」
「何で阪神なんだい?和久井先生は剣道をやってるのに」
藤熊先生にはそこがわからなかった。
「阪神ファンだからかい?野球は」
「はい、そうです」
そのものずばりであった。
「実は阪神ファンでして。彼女も」
「まあわしもだけれどね」
実はそれは藤熊先生もなのだった。やはり阪神ファンは多かった。
「それはね」
「そうだったんですか」
「生まれついての虎キチだよ、これでも」
こうまで言う藤熊先生だった。
「わしはね」
「初耳ですけれど」
「隠すつもりはなかったけれどそうだったんだよ」
先生はここではじめて話したのであった。
「それでだけれどね」
「はい」
「おめでとう」
あらためて彼に告げた。
「これで和久井先生も生涯の伴侶を得たわけだね」
「はい、そうですね」
先生のその言葉に明るく応えてだった。
「そうなるように努力します」
「頑張ってな」
最後に満面の笑顔でこう言い合った。悟志は何ということはない騒ぎから思わぬものを手に入れることができた。生涯の伴侶というかけがえのないものを。そして口裂け女はこの町に出ることは二度となかった。皆その話をすぐに忘れてしまった程である。
口裂け女 完
2009・10・23
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