アインクラッド 後編
それが、本当のわたしだから
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ゃっ! ちょっ、ピナ、くすぐったいよ……!」
わたしも、また、こうやって混ざりたい。もっと、近くにいたい。友達になりたい。
今まで見て見ぬ振りをして、いつの間にか冷たくなっていた心の一部分が、今、再び流れ込んだ血液をエネルギーに、強く拍動を始めた。ずっと抑圧されていた思いが弾け飛んで、今にも口から飛び出しそうな勢いで全身を駆け巡った。しかしそれに待ったを掛けるように、どこからか生まれたネガティブな考えが、わたしの喉で堤防を作り感情の波を押し止めた。
どうせ断られる。そうなれば、わたしはまた、自分が孤独なんだって現実に直面させられる。
胸の奥底を締め付け、指と足の先を硬直させて、感情が言葉になるのを拒んだ。口を飛び出す直前で意思を抜かれた言葉たちが、意味を持たない空気の塊として吐き出され、徐々にその勢いさえも弱まっていく。
口が閉じる。顔が俯く。オレンジ色の光が、涙で世界一杯に滲む。その瞬間、頭を一つの言葉が過ぎった。
――『自分の本心をちゃんと相手に伝えることが、何よりも大切なんだ』。ハープのように軽やかな響きのそれは、わたしのがんじがらめに縛り付けていた葛藤の間にするりと溶け込み、いとも容易くそれを解いた。
顔を上げると、目に溜まっていた涙が二滴、同時に頬を伝った。幾分クリアになった視界の中央で、シリカちゃんとピナが立っていた。
「そう、だよね……。言わなきゃ、誰も分かんないもんね……」
小さく自分に呟いて、涙をふき取る。まだ少し震える右足を、勇気を持って一歩踏み出して、わたしは言った。
「ねぇ、シリカちゃん。……わたし、またシリカちゃんとピナに、会いにきてもいいかな? わたしと……友達になって、くれる……?」
すると、シリカちゃんは驚いたように目を丸くする。
そして。
「はいっ!」
次に彼女は、今までと同じように、元気な、満面の笑みを見せてくれたのだった。
シリカちゃんが右手を振ってウインドウを呼び出す。直後、わたしの眼前に、一つのメッセージが表示される。
『《Silica》からフレンド申請を受けました。申請を受諾しますか?』
ドクン、と、胸が脈打った。見慣れた無機質な紫色のフォントを何度も何度も読み返しながら、わたしは震える指で、文字の下の《YES》を押した。瞬時にウインドウが消え、すぐに別のウインドウが現れる。『《Silica》をフレンドリストに登録しました』――。
その文を見た途端、わたしは弾かれたように自分のフレンドリストを確認した。わたしのフレンドリストの一番上で、その名前が燦然と輝いていた。
――《Silica》。それが、わたしがこの世界で手にした、初めての、本当の友達の名前だった。
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