第十一楽章 少し早いピリオド
11-2小節
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も、ダメだ。ダメなんだよ。だってもうそいつ、死んじまってる)
「……何でだ」
「ルドガー! 落ち着いて」
「何で! どうしてあんたが! ジゼル!!」
どうしてここにいるのか。どうしてヴィクトルを背後から刺したのか。この男はエルの父親で、未来の……未来のルドガー、なのに。
「――――」
すると、険しい顔のジゼルから何かが投げつけられ、頬にぶつかった。白金の歯車の集合体――《道標》だ。
(何で俺に…って、ああ、そっか。ジゼルたちは俺が《鍵》だと思ってるんだった。実際エルの力を借りてるから半分くらいは本当になるけど)
黒い歯車がキャンドルスティックの刃先で砕け散り、ジゼルに降り注いだ。
世界に亀裂が入る。亀裂から世界が崩れ落ちて、ブラックアウトした。
雨が降っている。正史世界のウプサーラ湖跡にルドガーたちは立っていた。
ルドガーは真っ先に、突っ伏すエルの傍らに立つジゼルに歩み寄った。
「あんた、知ってたのか。最後の《道標》があいつだって……不明だって言ってたくせに、分かってて隠してたのか」
ジゼルの顔は長すぎる黒髪に隠れて見えない。
雨は容赦なく強くなっていく。
「何とか言えよ! いつもいつも人をハメて騙して! いい加減にしろよ! どうなってんだよクランスピア!」
肩を掴んだ。ジゼルが顔を上げる。
彼女の青紫から赤へのグラデーション・アイが、全て真っ赤に染まっていた。
掴んだ手を離したところで、逆にジゼルがルドガーに掴みかかった。
「《エルを……頼む。カナンの地を、開け……審判を、超、え……》」
それだけ言ってジゼルは気を失った。
ジゼルではない。今の言葉は。今、ルドガーにエルを託した男は。
「――ヴィクトル!」
呼んでも、意識を失ったジゼルから答えはなかった。
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