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第一章
正夢
朝起きて思ったことは。何故あんな夢を見たかということだ。
あんな夢を見たのははじめてだった。顔の見えない誰かと肌を重ね淫蕩な交わりの中に溺れる。確かに淫らな夢はこれまでにも見てきた。だがあそこまで淫らな夢を見たのははじめてだったのだ。
「どうしてかしら」
自分に問い聞かせもする。
「どうしてあんな夢を」
だが答えは出ることはない。どうしてもわからないままにベッドから起きて服を着替える。そうしてそのうえで朝食の仕度をはじめるのであった。
丁度トーストもハムエッグも焼けたところで夫が起きてきた。夫の保正はまだ半分寝ている顔である。その顔でリビングに出て来てまずこう言ってきた。
「おはよう」
「おはよう」
それぞれ挨拶をする。夫に顔を向けながらそのハムエッグを皿に入れる。二人分だ。
それに昨日の夜のサラダの残りを出しそれにドレッシングをかける。ミルクも出してそれを朝食とするのだった。
「ふう」
テーブルに着くと溜息を出すのだった。すると保正はすぐに彼女に問うてきた。
「どうしたんだ?真理子」
「何でもないの」
こう夫に返すのだった。
「ちょっとまだ眠いだけ」
「何だ、そうなのか」
「昨日結構寝たのだけれどね」
「疲れてるんじゃないのか?」
保正はトーストを両手の指で千切りながらこう言ってきた。
「それは」
「そうかしら」
「身体はともかく心がってやつじゃないのか?」
そうではないかというのである。夫はようやく目が覚めてきたという感じだった。そのトーストをコップの中のミルクに軽く浸してそのうえで口の中に入れている。
「それだとな」
「それだと?」
「気分転換したらどうだい?」
今度の言葉はこれだった。
「気分転換。どうかな」
「気分転換ね」
「今夜食事でもどうだ?」
そして食事を提案してきたのである。
「何処か洒落たレストランにでも入ってな」
「レストランね」
「ほら、この前言ってたじゃないか」
妻に対してさらに言ってきた。今度はハムエッグを食べている。
「スペイン料理の評判のいいレストランがあるって」
「あそこね」
「僕の会社帰りに。今日は早いし」
「それで待ち合わせてなのね」
「それでどうだい?」
ここまで話してまた行ってきたのであった。
「いい気分転換になるだろ」
「そうね。いいわね」
夫のその言葉に頷く真理子だった。頷きながらサラダにフォークを入れる。
そしてそのレタスとスライスされたトマトを口の中に運びながら。彼女も言うのだった。
「スペイン料理好きだし」
「そうだろ?じゃあ丁度いいじゃないか」
「わかったわ」
夫のその誘いに乗るのだった。
「じゃあ
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