暁 〜小説投稿サイト〜
或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第十ニ話 最後の転進 最後の捨石
[3/5]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
けた冷蔵式敗残兵の群れに下すであろう過大評価を張り子の虎にして時間を稼いたのだ。
それらが消え失せた今、〈帝国〉軍は考える。

答えは一つ対処も一つ、この街道で裸の大隊を叩き潰す上手くすれば余裕があれば海岸の残存戦力へ偵察を行い、可能ならば(おそらく可能だろうが)残存戦力を掃討する。
 ――なんとも単純明快にして確実極まりない答えじゃないか、羨ましい限りだ。
 鼓膜のすぐそばで心臓が喧しく鼓動の音を響き。視界の凡てが無味意味なものとなり、思考が喧しく本能を喚きたてる。
 ――嫌だ、厭だ、あの天狼に敷き詰められた屍体達から逃げてきたのに、こんな最後の最後で死ぬだ、なんて嫌だ!俺は何としても生きて帰りたい!

――俺も含めて皆を生かして帰したい、どうする?

 ――濃霧と導術を利用し逃げる。
Non 海岸まで逃げ切れても作業中に襲われる。行き着く場所は北美名津と言うことは知られている筈だ。そんな皆に中途半端な希望を抱かせる終わりは断じて御免だ。

 ――やり過ごし、背後から仕掛ける。
Non 本隊と挟撃されたいのか? 余計無惨な結果を産むだけだ。

  ――遅滞戦闘隊を集成、時間を稼ぐ。

  ――これしかない 此処で騎兵を相手に三刻も稼げば何とかなる。
濃霧を利用すれば苦しいが何とか残りは生きて帰れる――問題は誰がやるかだ。

 ――言い替えれば誰を内地へ帰すかを俺が決めるな、さてどうする?
一番魅力的なのは今すぐ皆に土下座して自決して、新城に後を任せたいのだが流石にやれない
馬鹿らしさに自然と笑みが浮かんだ。
――昔聞いたときには石器時代の風習とか悪口を云ったがこうなると魅力的な選択肢に見えるな。

――まず基本として導術兵は論外、帝国では宗教上の理由で導術は忌み嫌われている。
遅滞戦闘部隊は戦死か俘虜になることが確実なのだ、それは酷すぎる。

 ――ならば霧を利用する以上、剣虎兵は必須だ。鋭敏な感覚は導術探索の代替になるし、騎兵の攪乱は、必ず必要になる。

脳裏で理論を組み立てる。
 現状、所持している玉薬から考えても此方が割けるの一個中隊規模、ただそれだけで、敵を誘引し、可能な限り時間を稼ぐしかない。

 ――糞っ!結局は殺されるか、捕らえられるか、その下らない選択肢しか与えられないのか!
 いつの間にか顔を覆っていた手で不甲斐ない自分のこめかみを締め付ける。

「大隊長殿。」
 新城が淡々と声をかけてきた。
「何だ」

「自分が」

「いや、俺がやる、中隊を集成し直率する。」

「撤退出来なくなります、それに大隊長は主力を掌握していなければ。」
「主力?
戦うのは俺が直率する中隊だけだ、剣牙虎も砲も残弾を含めて全部もらうぞ。
どうだ、此方が主力だ。」

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ