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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第十ニ話 最後の転進 最後の捨石
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にが多発する戦場では(もちろん避けるために努力は払うべきだが)当然のものとして考えるべきである。
 さて閑話休題

「そろそろ大休止を行う。森の所で兵達を休ませよう」
「はい、大隊長殿」

目的地までは残りは約五里程度――ならば、一刻程度で到着するはずだ。
転進作業には二刻程度と見ていいだろう。
苗川からも十五里程、騎兵もそう長く単独行動は出来まい。
休憩をとってもこの状態なら何とかなる、水軍も護衛程度とはいえ陸兵が居るはずだ。
艦船の火力もあるし、合流すればどうとでもなる。

 ――休憩しないと後が危険だ。散々〈帝国〉軍を疲労させたこっちが疲労しきったところを襲われる、ここまでやっておいて、これが因果応報ってお話だったのさ、何てオチは好みじゃない。
そんな訓話を読みたいなら寺の説話集で読める。

休憩開始から半刻程した時、増谷曹長の部下の一人が頭を跳ね上げた。
「大隊長殿!
敵主力より、騎兵二個大隊が突出して行動を開始しました!
側道の大隊と合流し南下しています!」

「!!」
 ――やられた。
豊久は自分が兵達を連れて渡っていった綱がついに音を立てて切れた事を理解した。
――帝国の兵站を破壊しても物資自体は〈帝国〉本土より届いている。勿論、第十一大隊にその補給線を絶てるワケはない。だが、それをすれば致命傷になる、帝国軍はそれを恐れて鎮台主力を追撃すべく、ほぼ完全編成の一個旅団をあの状況で派遣させたのだ。
――真室が破壊された事で危機感を覚えた〈帝国〉軍は、そのか細い線に無理を言わせたのだろう。 そして先遣部隊司令部はその糧秣を手にしながら蛻の殻である陣地を見てこう判断したのだ
――時間切れである、敵軍主力は既に逃亡したのだ、と
騎兵一個聯隊を闊達に運動させられる糧秣を用意させる理由はただ一つそれだけだ。
 一個大隊に消耗した先で逆襲の時を待つ北領鎮台一万五千名、万一逆襲の時を待っているのならば早期に撃滅せねばならない。 その虚構は逃亡した大隊が残した蛻の殻の陣地で失われた。。
僅かながら期待しついたもう一つの欺瞞、戦力の過大評価もこれで失われた。
何しろ防衛線を構築した場所には消耗した一個大隊だけしかおらず、増援もろくに受けていないのだ、逆襲もへったくれもない状態なのは分かるだろう。
 さて張り子の虎を取り払い、此処に残りますは小癪な大隊、急造の補給線から回した一個連隊分の糧秣で叩き潰すには――
「傷を負った連隊でも十分ってか?」
 悪罵を噛み殺して呟く。
  ――見事に的中だ、俺の一縷の望みも絶たれた。
 そう既に〈帝国〉軍には後先考える必要は無くなったのだ、全力を挙げて小癪な蛮族の大隊を叩き潰せばよいのだ。
  ――俺は自国の村を焼き、敵を弱らせ陣地と地の利に頼り、背後の尻に帆をか
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