白の世界
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突如、波のように押し寄せる『白』によって、世界から色が消えた。
信号も、自販機も、郵便ポストも、道路のアスファルトも、空と太陽さえも色を失い、全ての物の輪郭が霞(かす)んで曖昧(あいまい)になっている。
『白』に呑み込まれた生き物は姿を消し、辺りは不気味な静寂に包まれていた。
時計は時を刻むことを辞め、川は重力に逆らいその流れを止めている。
だが、何もかもが止まったこの白い世界の中、動くものが二つ。
「白昼夢、か……」
一人は白に紛れ得ぬ黒い服に身を包み、ポケットに手を突っ込んでいる青年。
服の所々には何かを抑えるための物であろう、ベルトのような装飾品やチェーンが付いていて、歩を進める度にジャラジャラと音を立てている。
「喋りながら漢字を脳内に浮かべさせるのやめてくれない?そういうの、能力のムダ遣い」
一人は風景に消え入ってしまいそうな白いワンピースを着て、分厚い本を小脇に抱えた少女。
肌も透き通るような、且つ健康的な白であり、はぐれたら見失ってしまうかもしれない。
「そんなことを気にしている場合じゃないと思うが?」
少女が青年の指し示す先を見ると、民家の屋根が徐々に色を取り戻していた。
「ふぅ…そうね、急がなきゃ」
二人は頷き合い、青年は『白』が迫ってきた方角へと走り出し、少女は青年が民家を飛び越して後ろ姿が見えなくなったのを確認すると、本を開き式を編んで結界を張り直し、世界に色が戻るのを阻止し始めた。
青年は人並外れた速さで目標へと駆け、民家を軽々と飛び越えて最短距離を進み、遂にその眼に目標の姿を映した。
距離、おおよそ五百メートル。
それは五メートルほどの大きさの、太い棒人間から丸を除いたような黒い人型であった。
頭部に当たる部分には、煌々と輝く宝石に似た『核』が埋まっている。
「ククッ…奴が元凶か」
不敵な笑みを浮かべた青年は宙に現れた光の足場に降り立ち、右手を天に掲げた。
何もなかった掌に閃光と共に現れたのは、豪奢(ごうしゃ)な長槍。
「狙い過たず獲物を撃ち抜け。嵐の神より賜(たまわ)りし槍、必中神槍!」
大仰な叫びの後、青年の手から放たれた槍は、その体躯から出し得ぬはずの力で飛ばされ、空気を切り裂き雷鳴に似た音を轟かせながら、黒い人型の頭部にあたる天辺へと吸い込まれるようにして核を貫いた。
核を撃ち抜かれた人型は断末魔を上げる隙すら与えられず、膝から崩れ落ち、周りと同じ白い灰になって雲散霧消した。
青年は目標の消滅を見届けると、今来た道を駆けて少女のもとへと帰還した。
「お疲れさま
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