魔石の時代
第五章
そして、いくつかの世界の終わり4
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か。全く理解できなかった。それとも、あの世界――第九七管理外世界に伝わる呪いの言葉か何かなのだろうか。馬鹿げた事だが、その瞬間は本気でそんな事を考えていた。
「私はいつも自分の事ばかりで……自分だけが苦しんでるんだって思いこんでて……かあ――あなたがあんなに苦しんでる事なんて全然知らなくて……」
言葉が理解できない。この子は何故、私に頭を下げているのか。全く理解できない。今、一体私はこの子に何をされている? 何をさせている?
「それで、その、もしも私でよければ……これからも、貴方のお手伝いをさせて欲しいんです。あなたが、ちゃんと娘さんに会えるように――」
理解が及ぶより早く。意識が追いつくより早く。身体はすでに動いていた。鉛のように重い身体が、その瞬間だけは重さを失ったような錯覚の中で――実際は、ほとんど這いずるような形だったとしても――その子の身体を抱きしめていた。
「ごめん、ごめんなさい……本当に……」
あれだけの仕打ちを受けて――それでも何故この子が私に謝らなければならない? そんな事は間違っているのだ。この子は思いつく限りの言葉で私を罵って、ありったけの魔力を込めた魔法でも叩きつければいい。それだけの権利がある。なのに、何故?
「ごめんね、フェイト……」
ひょっとして、まさか、今でも……この子は私のことを母親だと思ってくれているのだろうか。
「母さん……?」
それに答えるように、この子は――フェイトは呟いた。
「まだそう呼んでくれるの?」
「もちろんだよ。あなたは私の母さんだもの」
ああ、確かにそうだ。この少女がどんな生まれ方をしたとして――この子が母親と呼べるのは私しかいない。私の意思や思惑など関係なく、この子を生みだした時点で、私はこの子の母親になったのだ。そんな事に、ずっと気付かずにいた。ずっと気付こうとしなかった。気付きたくはなかったのだ。だが、もうそうは言っていられない。ああ、全く何て世界なのか。絶望に逃げ込む事すら許さないなんて。
「これからも、母さんって呼んで良い?」
そして――彼女は恐る恐る言った。
馬鹿な子だった。本当に馬鹿な子だった。私には勿体ないくらいに。
「ええ。ええ。……フェイト、あなたがまだそう呼んでくれるなら」
まだ私をそう呼んでくれるなんて。本当に――私には勿体ないくらいの娘だった。こんな世界でも――こんな私でも、まだ生きていかなければならない。そう思えるほどに。
4
「いい加減離れろ」
「やだ」
今朝方目覚めてから何度か――下手をすると何十度か――繰り返した会話を繰り返し、ため息をつく。そろそろため息をつくところまでを一括りにしてもいいのではないか。そんな事を考えつつ、呻く。
「お前はコアラか何かか?」
「いいでしょ、コアラ。可愛いもん
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