第2部 風のアルビオン
最終章 決戦
[2/10]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
を始める」
王子の声が、ルイズの耳に届く。
でも、どこか遠くで鳴り響く鐘のように、心許ない響きであった。
ルイズの心には、深い霧のような雲がかかったままだった。
「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そしつ妻とすることを誓いますか」
ワルドは重々しく頷いて、杖を振った左手を胸の前に置いた。
「誓います」
ウェールズはにこりと笑って頷き、今度はルイズに視線を移した。
「新婦ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」
朗々と、ウェールズが誓いのための詔を読み上げる。
今が、結婚式の最中だということに、ルイズは気付いた。
相手は、憧れていた頼もしいワルド。
2人の父が交わした、結婚の約束。
幼い心の中、ぼんやりと想像していた未来。
それが今、現実のものになろうとしている。
ワルドのことは嫌いじゃない。
おそらく、好いているのだろう。
でも、それならばどうして、こんなに切ないのだろう。
どうして、こんなに気持ちは沈むのだろう。
滅び行く王国を、目にしたから?
愛する人を守るため、死を選んだ王子を目の当たりにしたから?
違う。
悲しい出来事は、心に傷つけはするけれど、このような雲をかからせはしない。
深い、沈うつな雲を、かからせはしない。
ルイズは不意に、ウルキオラのことを思い出した。
どうして自分の心に、ウルキオラが出てくるのだろう?
止めて欲しかったのだ。
誰に?
ウルキオラに止めて欲しかったからだ。
どうして?
その理由に気づいて、ルイズは顔を赤らめた。
悲しみに耐え切れず、昨晩、廊下で出会ったウルキオラの胸に飛び込んだ理由に気付いた。
でも、それはほんとの気持ちなのだろうか?
わからない。
でも、確かめる価値はあるんじゃないだろうか?
なぜなら自分から、異性の胸に飛び込むなんて、どんなに感情を高ぶらせたって、ついぞなかったことなのだから。
一方……。
こちらは、ニューカッスル城のとある部屋のなか。
「なるほど、虚っていう種族の中にも色々あるんだな」
「ああ」
椅子に腰掛け、デルフに虚の説明をしていたウルキオラは、視界が一瞬曇ったことに気付いた。
「…」
「どうした?相棒」
デルフは急に話を止めたウルキオラを不審に思った。
ウルキオラの視界が、まるで真夏の陽炎のように、左目の視界が揺らぐ。
「目がおかしい」
「疲れてるんじゃないか?そんなことより、早く続きだ、続き!」
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ