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MA芸能事務所
偏に、彼に祝福を。
第二章
九話 今年の熱さ
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ったのだ。
 良かった。良かったと繰り返す彼女にただ抱きつかれたままの私は、何故かそこで、冷たくなった美香を見つけた時の事を思い出した。今触れ合う素肌の麗さんは、酷く熱い。
 彼女の肩を掴んで、私から引き離した。少し難儀したが、彼女は離れた。
「麗さん、俺は」
「今は」
 彼女は私の言葉を遮った。
「今は……何も言わなくていいさ」
 彼女は、目尻を手で拭った。そうして私から離れた。
「それよりほら、服を着て待とうじゃないか」
 聞いて初めて、私は下着を除いて服を着ていないことに気がついた。上半身を起こして周りを見るに、ここは私が乗ってきた軽自動車の中で、前の座席を倒して寝転がっていたようだ。周りを見た際、なるべく見ないようにしていたが、側で外を向いて座っている麗さんは、上はスポーツブラ、下はスパッツだった。
 私の背中で潰されていた衣服を二人で着終わった時、先ほどの彼女の言葉が頭を過ぎった。
「麗さん、そういえば、先ほどの待とうって」
「ああ、それはな」
 そこまで彼女が言った時、車の中を強い明かりが照らした。車のヘッドライトだ。それは道路脇のこの駐車場に入ってきた車のものだった。こんな時期の未明の、誰も止めることがないだろうこの駐車場に。
「何だ、私の台詞を取りおって……」
 苦笑する麗さんが向いている方向を見ると、まだ停止していない車から飛び降りてきただろう泰葉がこちらに駆け寄ってきていた。私は、ドアを開けて車から降りた。
 私は、その時どんな風に彼女を迎えるか酷く迷った。申し訳ない顔をすればいいだろうか。それとも、悲しそうな?
 結局彼女が私のもとに来る迄で決められなかった。彼女は私の元へ来ても勢い殺さず、私の胸へと飛び込んだ。その時、勢いを殺せず自身の車の方へ倒れかかる私はきっと、困ったような笑みを浮かべていることだろう。

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