暁 〜小説投稿サイト〜
MA芸能事務所
偏に、彼に祝福を。
第二章
八話 昨年の冷たさ
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んが明るく返す。
「はい。今まで心配をお掛けして申し訳ありませんでした」
「いいのよ、元気になってくれたなら」
 いつもと変わらぬ会話を交わす二人を見ながら、私は一言も言葉を発せられなかった。驚きと、疑問によって。
「美香、ちょっと」
 彼女を手招きして、近くの空いている部屋に入る。入ってきた彼女に注目する。いつも通りだ。
「何故今日来たんだ?」
「達也ずっと私のところにくるでしょ? 本業はプロデューサー。ほら、私に構わずに新人でも見つけてきなって」
「そんなことを言うために来たのか?」
 やや語尾を強める。こっちがどれだけ心配していると思っているのか。
「そんなことって……。あのね、達也。私は貴方にプロデュースされて嬉しかった。ちょっとしたお仕事しかしたことがないけど、それでも自身が輝けるその瞬間は楽しかった。そういうことを色んな女の子にするのが達也なんだよ?
 忘れないで。例え私が道半ばで倒れても、他には輝きたい女の子が沢山いるの」
 私は次の言葉に窮した。彼女に面と向かって、お前が居たからこの職業に就いた、何ては言えない。
「だとしても、お前が倒れたならそれは……」
「そういうと思って直接ここに来たの。大丈夫、まだ体力はあるから自主トレくらいならしておく。ちひろさんにはいつも通りって風で来てるんだからさ。
 私はアイドルとして頑張るから、達也もプロデューサーとして頑張ってよ」
 私はどう返答するか迷ったが、大人しくああと返した。
「よろしい。約束だよ? きちんと、プロデューサーとして頑張る」
「分かっているって。けど、もしお前が本当に辛くなってしまったその時はお前の元から離れないぞ?」
 この言葉を言うのには、随分な勇気が必要だった。一種のプロポーズ何だから。
 彼女は一瞬顔を歪めた。それは少し悲しそうな顔だったと思った。
「うん……けど、それ以外の時はきっちりプロデューサーとして」
「約束する。約束するよ。……ほら、そろそろ戻ろう。ちひろさんが、変な勘ぐりでもしていたら困る」
「そうだね。ほら、行こう!」
 駈け出した彼女は、部屋を出る短い間、私の手を握っていた。
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