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MA芸能事務所
偏に、彼に祝福を。
第二章
八話 昨年の冷たさ
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さんは困ったような笑みを浮かべた。彼女は美香の更に一つ上で、この三人の中のリーダー格だ。
「まぁまぁ。美香は久しぶりに三人で出かけられて燥いでいるのよ」
「ちょっとちひろさん!? 何言ってるんですか!」
 騒ぐ美香を、私とちひろさんで弄くりながら境内を進む。最近はやっと仕事が入ってきて、三人で嘗てのように出かけるのは少なくなった。最後、三人でバイクで中禅寺湖に行ったのはいつだっただろうか。
 三人で順にお詣りする。私は特に何も考えてはいなかったが、どうやら二人は色々と考える所があるらしく、その黙祷の時間は長かった。
「こら、真ん中歩くなって」
 二人を待つ間、後ろから聞こえた聞き覚えのある声に振り向いた。
「乾じゃないですか。久しぶり」
 こちらの声を聞いて、彼はこちらを向いた。
「ああ、平間か。どうも」
「そっちは?」
 彼の側に居た、二十歳に満たない程の少女を尋ねる。
「連れ。昔養った奴だよ。今ではこちら側だけど」
 少女は私に小さく頭を下げた。
 乾は施設で、何人かの子供を養っていた。親なしの子らしい。彼も見た目二十程の人間だから違和感があるが、以前会った何人かは明らかに日本人ではなかったので、私は深い詮索をしないでいた。
 彼と顔見知りになったのは、彼が養う中で数名の少女が美香の事を慕っていたからだ。彼としても子供が美香の名前を出すと黙るのもあって都合のいいことだっただろう。美香としても慕われるというのはいい自信がつく。いい関係と言えた。また彼自身も私と気があった。
 美香とちひろさんが返ってくるのに気づいた乾は、邪魔したら悪いからと二人に会う前に去っていった。



 周りの景色がぐるりと変わる。これは、忘れもしない二月の事だ。

「達也さん。達也さん?」
 ちひろさんの言葉で意識を戻す。ぼぅっとしてしまっていたらしい。
「どうしたんですか?」
 彼女に何でもないと答えて、私は業務に向かった。
 私がこのような失態を犯すのには理由があった。美香のことだ。彼女の父親から私の元に、昨日連絡が入った。
 娘は、もう長くない。その後に続いた言葉はさほど覚えていない。ただ、悪性リンパ腫という名前は微かに聞こえた。私に伝えた理由は、美香が私に伝えるように言ったらしい。
 私はその日の業務を終え、美香の元へ向かった。彼女に会った私は、昨日までと変わらない彼女に安堵を覚えた。
「あの電話、本当なのか?」
「ええ。長くて五年だって」
 私は頭のなかが真っ白になった。今のプロデューサーという立場は彼女が居たから就いたのだ。もし彼女がいなくなるのなら私がそこにいる理由はない。
「これから入院するのか?」
「まだ。痛み止めも貰ってるし、本当に辛くなったら入院かな」
 私はその言葉にひっかかりを覚えた。

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