暁 〜小説投稿サイト〜
MA芸能事務所
偏に、彼に祝福を。
第二章
六話 惰性
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、死のうと思っている方も幾度と無く見てきましたので」
 私は修道女として、信者の相談を時たま受けた。相談は複数の形を持つ。一番多いのは自身で解決した事を改めて話す確認。次に多いのは不満を零し、同意を求める愚痴。そうしたものとは別に、時たまいるのだ。その会話に何ら意味を持たない人間が。そういう人間は二別される。ただ話したいだけの人間か、それとも自殺志望者か。
「彼は随分前から決心していたのですね。それにちひろさんも関わっていた」
「そうよ。彼が決心したのは一月」
 また違和感。何故今まで何も言わなかった彼女が、今になってべらべらと喋るのだろうか。
「何故今になってこんなに簡単に私に明かしてくれるのですか?」
「元々、私はこのゲームが終わった時、辞めると言った貴方に全てを明かすつもりだったのよ。……勝った時に彼の辞職を取りやめる。これは私の起こしたイレギュラーよ。巻き込んで辞めると宣言してしまった貴方には、事の全容を知って貰おうと思っていの。
 先に明かしてしまったら、動揺するかと思っていて黙っていたけれど、察してしまっていたならば黙っている理由はもうないわ」
「彼の自殺を何故止めないのですか?」
「止めたわよ。けど彼は何も聞かなかった……青木さん達が彼に言ってきた、趣味もなく、ずっと貴方達に尽くすことをやめて欲しいということ。今でも彼は変わらないでしょ? 終ぞ、変われないままなのかもね」
「変われなくても、何で今のままでいることすら放棄するのですか?」
「逆よ。今までが異常だったの。彼は今まで惰性で生きてきた。今その立場にいて、そうして今までプロデューサーだったのだから彼はプロデューサーを続けた。そこに仕事をしているという義務感はなかった。故にお金に執着もなかった。彼の部屋に行ったアイドル達に聞いたでしょ? 無趣味。ただ育てるという惰性で動いていたのよ今まで」
 惰性。だから、一度止まるような事が起きれば、もう動き出せない。それが一月の倒れるという事態。
 だが惰性ならば、其れに至る加速の道があったはず。
「何故彼はプロデューサーを始めたのですか」
「一人の女性をプロデュースするためよ。少し、昔の事を話しましょうか。私と、彼女と、そうして達也さんは幼なじみだった。三人の内、私は親が社長を務めていた芸能事務所についた。彼女……綾瀬美香は、元々はバレエ団に入ることを目指してた。けど、バレリーナとしての限界を感じた彼女は、私の事務所に来てアイドルとして歩み出すことにしたのよ。今から二年前の事だったわ」
 思い返す。私も賛美歌を弾く為、オルガンの覚えがある。また、練習の一環としてクラシックも幾らかか聞いたり弾いたことがある。達也様が泰葉さんに言った曲、ボレロは色々な場面で使われる有名な曲だが、元々はバレエ曲だ。綾瀬美香なる女性に彼が影響
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