第三章、その5の2:一日の終わり
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朧のように差し込む夜光と静謐に混じり、雷のように宙を裂く剣閃の協奏が木霊する。売り文句を刻んだ立て看板が示す王都のその建物は今では、売主や買い手達の利益と夢想に対する思いを蹂躙している。床一面の血の海と多量の死骸、或いはその一部。饐えた臭いが立ち込める中で響く剣戟の音は、正に地獄の様相に相応しき音楽であった。
奏者の一人であるミルカは、相対する男の剣閃を身を捻って裂ける。信じ難いほどの力が篭った剣の切っ先が石壁に当たり、壁の一部を零しながら剣の切っ先が砕かれる。普通の者ならば剣を捨てるであろうが、この男にとってはまだ使いようのある得物だ。素早く剣を返してミルカの頚部を狙うも、割って入ったミルカの剣に遮られ、それを弾き飛ばすだけに留まった。勢いに押されてたたらを踏むミルカを庇うように後背から慧卓が中段より切り掛るが、男は素早く踵を反転させて剣閃を押さえ込み、慧卓に近寄って渾身の力で跳ね除けた。
「うおっ!?」
後ろへ大きく後退する慧卓に一気に詰め寄り、凶刃を真っ直ぐに突き出す。慧卓は剣の腹でそれを受け止め、防ぎながら床に転がる。身体を倒すと同時に剣が弾かれて吹き飛び、男の剣も更に欠けた。最早刀身半ばのみしかないそれを男は慧卓に向かって投げつけるが、足で持ち上げられた死体によって妨げられる。慧卓は床に転がる剣へと飛びつきながら、男の膂力に歯噛みした。
(重さだけかっ!!だがそれがっ・・・!!)
己を大きく後退させた男の力は想像の遥か上を行くものであった。剣越しに肩が間接から外されそうになる感覚を味わい、一瞬肝がかなり冷えてしまった。
耳をつんざめく鉄の高調子に急ぎ目を遣る。ミルカが男に詰め寄って剣を払ったが男はそれを鎧でそれを防いだらしい、剣による深い筋が銀色の肌に刻まれていた。男は柱の影に回ってミルカの鋭き剣閃から避けると、その影に落ちていた憲兵の上半身をむんずと掴み取り、立ち上がりかけていた慧卓に向かって投擲する。
「はぁっ!?」
自らに迫り来る奇怪な代物に慧卓の思考は一瞬硬直し、そして大腸をひらひらとさせながら飛来する胴体に押し潰される。男は床に転がる憲兵の下半身の近くから剣を拾うも、ミルカが素早く慧卓の前に立ち塞がって、男の接近を妨げた。
「・・・大丈夫ですか?」
「・・・平気。ちょっと血が出てるだけだ」
躯を押し退けて慧卓は姿を現す。鎧に衝突されてその継ぎ目が擦ったせいか、鼻の頭から左頬にかけて赤い斑点が出来ており、左目の下に小さな切り傷が出来て血液を零していた。
戸口の方で蹲り只管に戻していたパウリナは青褪めた表情をしながら、慧卓らへと声を掛けた。
「あの、私も助けに・・・」
「気分がやばいんだろ?俺達に任せておけって・・・」
「・・・・・・おえっ・・・」
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