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王道を走れば:幻想にて
第三章、その5の2:一日の終わり
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リナの下へと膝を突いた。剣を床に置いて優しげに彼女の髪を撫でる姿は、とても害意や敵意が感じられるものではなかった。慧卓は剣の構えを解きながらユミルに話し掛ける。

「ユミルさん。貴方こそ大丈夫だったか?その剣の血、かなり新しいものだと思うんだが」
「上の方で、ちょっとな。見に行けば分かるさ・・・」
「・・・ミルカ、ここで応援を待ってくれ」
「あまり無茶をしない方がいいですよ」
「それは今のお前が聞くべき言葉だよ」

 慧卓は剣を握りなおして階段の方へと向かっていき、たんたんと登っていく。下の階よりも明るみを増した二階に辿り着いた慧卓は、一瞬、其処に広がる光景に呆気に取られた。

「・・・・・・あらあら、まぁまぁ」

 何一つ、調度品も家具も何も無いだだっ広い部屋の中央、星と月の薄明かりに身を置くように、一人の見覚えのある男が死体となって転がっていた。それは昼時に聖鐘で慧卓を強襲した、あの翠色の鱗肌をした男であった。胸部に明瞭な細長い穴が開いて其処から鮮血を流している。心臓がある場所を一突き、素人目でも分かるほどの致命傷である。ユミル以外の誰が、彼を殺したといえるだろうか。
 男の剣が床に転がり、そして奇妙な事に、男の顔には淡く小さな笑みが浮かべられているようにも見えた。死に際に浮かべるにしては、酷く安らかで、まるで重圧から開放されたかのような笑みであった。慧卓は軽く頭を捻る。遠くの方から漸く、応援に駆けつけたであろう憲兵達の騒々しい足音が響いてきた。夜に響くそれは住民の安堵を妨げて真っ直ぐに向かってきている。今日は随分と長い一日であったと、慧卓はずきずきと痛む胸を押さえながら、小さく息を吐いた。
 
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