暁 〜小説投稿サイト〜
MA芸能事務所
偏に、彼に祝福を。
第二章
一話 不安
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「え、うん」
 私は脳内でクラリスさんのプロフィールをわかる限り思い出そうと努力した。年齢、身長。スリーサイズは覚えていなかったが、後思い出せることは趣味の―――。
「私の趣味はボランティアです。ボランティア、それは自主的な献身です。話を聞くに正しく彼はそういう事をしてきたのです。財を投げ打ち体に鞭打ち自身が出来る限りの事しました。方向性が違えば、きっと優秀な神父に……」
 失礼しましたと、彼女は言葉を切った。彼が神父ならば、何て事は幾らか不謹慎だと思ったらしい。
「けど、悲しいですね。彼は其れに喜びを見いだせなかった。故に頓着がないのでしょう。」
 理由はわかりませんが、と最後に付け加えて、彼女は口を閉じた。
「だとしたら呼び止める事は、彼にとって苦痛でしかないのでしょうか」
 究極的には其処に留まる。例え誰かが彼のために動きたくても、彼に取ってそれが苦痛でしかないのならばその動機は矛盾する。
「どうでしょうか。私は私なりに達也様を見てきましたが、あの人はともするならば、今を楽しんでいるようにも思えます。それがここを辞めるという清々しさからくるものかはわかりませんが」
 ここで一度言葉を切ると、彼女は振り向いた。壁しか見えないがその方向は事務所。
「達也様は後腐れない。故に淡々と確実に準備を進めています。事務所の中が何よりの証拠。入った時は未熟だった沢山の子達は、今や技術と、何より自信を持ってアイドルという職を全うしています。彼の退職に動揺することはあっても、彼女たちはその足を立止まらせることはない」
 私達のような例外もいましたが、と自虐的に呟くと、今度はしかと私の目を見て続けた。
「彼はバベルの塔を建てたのではありません。彼の育てたアイドルは、倒れません。その足でしかと立ち、きっと光り輝く」
 嗚呼、もしや、彼は。
「もしかして達也さんは……その為に?」
「どういうこと?」
 慶さんの疑問の声は、既に私の耳には入ってはこない。
「私が考えるに、達也様は好意から逃げるために辞めるのではなく、アイドル達に一番近い立場の自身が消えることで、彼女たちの人格をより強固なものにする為辞めるということです」
 彼は、最後の最後まで、自身を一つの道具としか見ないつもり―――
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