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偏に、彼に祝福を。
第一章
六話 中禅寺湖の畔
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いないからな」
「違います、違います。少なからず私は貴方を嫌っていることはありません。ですが、いきなり敬語をやめろと言われてもすぐ他の人のように接するのは……」
「ほう、つまり敬語をやめる意思はあると? それなら上々だ。私達は今慰安旅行に来ているんだ。もっと気軽にいようじゃないか」
 では先に戻っていると告げ、部屋に入っていった彼女をただ眺めた一人廊下に残った私は、今日を含めての三日間何事もなく過ごせるだろうかと心配した。


 翌日、日光やその近辺を回った私達はその夜に最終日の予定を立てることにした。
「朝から神社に行ってみないか?」
 その提案は麗さんからだった。私達はそれを了承し、就寝した。
 三日目、最終日、私は暗い部屋の中で起きた。ベッドの側の時計を確認するに、午前五時三十分。私は二度寝を決めた。
 もう一度目が覚めた時、カーテンの外はまだ暗かった。そろそろ眠気も覚めてきてしまった私は浴衣を着替えると旅館の外へ向かった。ロビーの時計は午前六時を指していて、この時間に出れるか心配だったが、難なく外へ出られた。
 外へ出て、ある曲が聞こえることに気がついた。その事に、私は酷く驚いた。
 旅館や合宿所に滞在したことがあれば、誰でも朝聞くことになる曲があると思う。グリーグの朝というクラシック曲だ。だが、今流れている曲はそれではない。何故なら今は、朝の六時、近くの旅館が流すには早過ぎる時間帯なのだから。そうして流れている曲は、リズム主題のないフルートのみの演奏の―――
 演奏が止まった。私はそこで初めてその奏者を見つけた。旅館の側の、土産屋に併設された小さな足湯に足を浸し、こちらを向いている少女。側にはフルートケースが置いてある。
 私は彼女に近づいた。
「お早う」
「お早うございます」
 フルート奏者、ゆかりは小さく頭を下げた。
「早いな。早すぎだ。薄暗い中一人で出て行くなよ」
「一人ではありませんよ、明さんが一緒です。彼女は今ランニングしていますが」
 慰安旅行中にも日課を継続するとは、トレーナーの鑑だな、何て思う。
「結局今は一人じゃないか。危ないから私もここに居ていいか?」
「勿論です」
 彼女の返事を待って、私も靴を脱いで足湯に足を浸した。湯温はやや熱め。
「こんな時間でも暖かいのか」
「いえ、私と明さんが勝手に調整しちゃいました」
 周りを見ると、バルブが二つあった。恐らく片方は温泉、もう片方は冷水だろう。
「本当は駄目なんだが、まぁ今は俺もご一緒するから共犯だ。叱るわけにもいかないな。……それより、もう吹かないのか? ボレロ」
 ただ純粋に、彼女のボレロを聞きたかった。
「一人だけで吹くには少し寂しい曲ですので。それより、曲名知っているんですね」
「ああ、知っている。俺が知っている数少
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