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第九章
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第九章

「杏ちゃんと会うことになったよ」
「よかったって言うべきか?」
「よかったよ。しかし俺もな」
「どうしたんだ?」
「変わったんだな」
 ハンバーグ定食の味噌汁を飲む。それは若布と豆腐の味噌汁だ。その味噌の味を楽しみそのうえで彼に対して話すのである。
「俺も」
「御前もか」
「ああ、変わったんだな」
 あらためて言うのだった。
「俺もな」
「それは子供の頃と比べてだよな」
「ああ、変わったのはあの娘だけじゃなかったんだな」
「誰だって変わるさ」
 彼はキャベツを食べていた。ハンバーグの横にあるそのキャベツの千切りをだ。そこには赤とオレンジの中間色のドレッシングがかけられている。
「人間っていうのはな」
「そうみたいだな」
「ああ、変わるんだよ」
 彼はまた俊に言った。
「それはな」
「よく考えたら俺もな」
「何だ?」
「昔は巨人ファンだったんだよ」 
 このことを言うのである。
「小学校の小さい頃はな」
「非国民だったんだな」
「ああ、そうだった。この関西じゃな」
 関西では巨人はまさに敵である。特に甲子園においてはそうだ。
「巨人の帽子も持ってた」
「今もそれ持ってるのか?」
「いや、焼いた」
 そうしたというのである。
「不吉だからな」
「それはいいことだな。それでだ」
「ああ、それで」
「今はどの球団を応援しているんだ?」
「阪神だよ」
 そこだというのだ。
「あの球団を応援してるんだけれどよ」
「合格だな」
「合格か」
「当たり前だろ、あのチームが一番なんだよ」
 今の言葉は完全に主観だ。しかしそれでも説得力のあるものであった。
「野球はな」
「それがわかったんだよ、もうな」
「ガキの頃とは違ってか」
「ああ、よくわかった」
 また言う俊だった。
「野球は阪神だな」
「まあ俺は広島ファンだがな」
 ここで友人は自分のことも言った。
「俺の身体にはカープの赤い血が流れているからな」
「何だよ、阪神じゃねえのかよ」
「阪神は好きだ」
 それは変わらないとは答える。
「けれどな、俺の百歳になるひい婆ちゃんがな」
「まだ御存命か?」
「だから百歳になるんだよ」
「そうか、生きてるのかよ」
「仙人みたいになってるけれどな」
 百歳にもなればそうなる。年齢というものは中々深いものなのだ。
「それでも生きてるぞ」
「凄い婆ちゃんだな」
「だからひい婆ちゃんな。そのひい婆ちゃんが広島の呉生まれでな」
「呉か」
「今でも呉にいるさ」
 その曾祖母のことを話し続ける。
「そのひい婆ちゃんがカープができた頃からのファンなんだよ。もう日本シリーズで勝った時のことなんか実況解説してくれるぜ」
「凄い百歳だな」
「そのひい婆ちゃ
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