第七章
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第七章
しかし困っていても時間は経ってだ。マジックでまた杏と会うことになった。
「お兄ちゃん、暫く振りね」
「ああ、そうだよな」
少し抑えた笑みで彼女に応える。四人用の席に向かい合って座りそのうえで話をするのだった。心の中の動きはなるべく見せないようにして。
そのうえで徐々に。彼女に話すのだった。
「それで高校は何処だった?」
「高校?」
「そう、高校何処だったかな
「八条西高校よ」
そこだというのである。
「お兄ちゃんは確か」
「八条大学な」
彼はそこに通っている。大学生なのだ。
「哲学科だけれどな」
「へえ、哲学なの」
それを聞いて驚いた顔になる杏だった。
「お兄ちゃんが哲学なの」
「何かおかしいか?」
「意外だなって思って」
これは俊が予想していた返事である。
「それはね」
「意外だっていうのか」
「何か経済学部って感じだったから」
「経済学部も考えたさ」
それも考えたと答える。これは事実である。
「けれどな。やっぱりそういうの好きだからな」
「それで文学部のそっちなの」
「キルケゴールなんだよ」
そのうえでこの名前を出したのである。
「それが好きでさ」
「キルケゴールっていったら確か」
「ああ、知ってるんだ」
「名前だけはね」
こう答える杏だった。
「学校の授業で出て来たから」
「あれかこれか」
彼の代表作の一つである。
「そういう作品とかが有名だよね」
「そうよね。ええと、キリスト教の人で」
「そうだよ」
彼は神を信じていた。これが大きな特徴である。
「実存主義の先駆けみたいな感じでね。けれど神を信じていてね」
「それでそこが特徴なのね」
「ニーチェとはまた違うんだ」
ドイツの哲学者である。ワーグナーとの関係が有名である。神は死んだとしてそこから超人論を唱えた非常に有名な哲学者である。
「そこがね」
「そのキルケゴールをなの」
「サルトルとかはね」
ここで少し苦笑いになる俊だった。
「あまり好きじゃないし」
「そうなの」
「カントとかヘーゲルよりも好きだね」
両者もドイツの哲学者である。フリードリヒ大王の時代からドイツ帝国成立までのドイツ哲学には恐ろしいものがあるとよく言われている。それは第二次世界大戦まで続く。
「キルケゴールは」
「それでなの」
「そうなんだ。それでそれにしたんだ」
そうだというのである。
「キルケゴールにね」
「キルケゴールね」
「似合わないかな」
「昔のお兄ちゃんとはね」
杏はにこりと笑って答えてきた。
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