第十楽章 ブレーン・ジャック
10-3小節
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痛み自体は知っています。でも、だからこそ、ユリウスせんぱい――
リドウ先生はわたくしが泣き止むまでそばに付いていてくださいました。
「……すみません、でした。もう、大丈夫です。業務に戻ります」
「必要ない。お前の仕事はもうないから」
「え?」
「お前が寝こけてる間に、社長に報告しといた。《呪い》による機能不全と、実はフル骸殻だったこと。よくも俺にもヴェルにも隠し通したもんだ。『仲間にウソをつかない』って《ルール》はこれでアウトだな」
わたくしの中で何かの底が抜けたような気がした。
忘れていました。ビズリー社長は役に立たない駒を生かしておくほど寛容な方じゃありません。だから、せんぱい方は身を削ってクラン社に奉仕してきたんだもの。
「正確には、お前のすべきことは1個しかなくなったから、後は自由にしろって社長からお達し」
そんな社長が、わたくしが戦えなくなったとお知りになったら、《魂の橋》は必然的に――
「そうだよ。《橋》になるのはお前だって決まったんだよ。ジゼル・トワイ・リート」
右足を引きずってエレベーターに乗って、最上階の社長室へ向かった。呼び出されてもいないのに。
社長室を、ヴェルがするようにノックしてから、中に入る。ビズリー社長と、ヴェルが、いた。
「社長。リドウ室長から《橋》になるのがわたくしだと通達を頂きました。本当ですか?」
「お前でも命は惜しいか」
「いいえ。ただ、確証が欲しいだけです」
「《魂の橋》候補はお前と、ユリウス、リドウ、ルドガー。今までは内臓黒匣の負荷で先の永くないリドウを《橋》にする方針でいたが」
社長は椅子をお立ちになって、背を向けました。
空を見上げてらっしゃるのか、ガラスの反射を利用してわたくしを見ておられるのか。
「リドウからカルテが上がった。ジゼル、お前の脳は《クルスニク・レコード》に圧迫されて、肉体の稼働に支障を来し始めたそうだな」
「相違ございません」
「しかも、お前はフル骸殻に達しており、それを申告しなかった」
「おっしゃる通りでございます」
「これを受けて私は、ジゼル・トワイ・リート、お前を《魂の橋》にすることを決定する。異存はあるか」
大きく息を吸って、吐いた。先もってリドウ先生に告げられていたのが功を奏しましたわね。思ったよりショックは少ないです。
「ございません。わたくしの魂、祖国のため、人類の未来のためにお役立てください」
わたくしを顧みたビズリー社長は、いかにも満足したという風情で歩み寄って来られました。
差し出される、大きな掌。
「記録エージェントの任務、ご苦労だった。普通の骸殻能力者と異なるハンデを持ち、任務遂行は生半可ではなか
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