第十楽章 ブレーン・ジャック
10-2小節
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進めないのなら、そうするしかないじゃない」
わたくしの中に在る、報われなかったクルスニク一族の魂たちにハッピーエンドを。わたくしはそれを目標に今日まで生きてきた。
あの日の公園で、強く誓ったの。
それをここで終わりになんてできない。
恨むなとは申しません。安らかに眠ってとも申しません。
ナイフを持った右手を振り上げ……
ドシュッ。血が飛び散った。
え――?
わたくしの右手のナイフが、わたくしの足を刺していた。
一拍遅れて痛みが来た。思わずその場に膝を突いた。
「あ、う…くっ、…ああ、あああ!」
どうして!? よりによってこんな大事な時に……! 右手が言うことを聞かない!
「《似せ者だろうとミラさまを傷つける奴は許さない!》 ――い゛ギッ!?」
《レコードホルダー》……! 何て場面で邪魔をしてくれるの。痛い、自分で刺した足が痛い。やめて、抉らないで。この体はわたくしのものよ。離して! 《離すもんか!》 返して! 《ダメ!》
「ア、ア゛、アアアアアアァァッ!!」
懐の時計を無理やり起動する。防具がいるの。今のじゃ足りない。この《レコード》に侵されないように。「わたくし」を守る鎧を、殻を、お願い、与えて――!
骸殻が、解ける。
その場に崩れ落ちる。あたまがいたい。ハンマーで脳みそを内側から叩かれてるみたい。
それでも顔を上げて、見た。
――さながらそれは、天空をそのままヒトの形に象ったような、ヒトならざる美。ミス・ミラと同じでいて、それでも決定的に異なる。
これが本物のマクスウェル、本物の精霊の主。
正史世界のミラ=マクスウェルはエルちゃんに歩み寄った。悠然と。向こうにリドウ先生がまだいらっしゃるのに。
マクスウェルがエルちゃんを磔にしていた剣を抜き去る。エルちゃんはその場にぺたんと座り込んだ。
くっ。ここで倒れるわけには参りません。精霊のマクスウェルが現れた今、戦況は著しくリドウ先生に不利。リドウ先生が今日ほど長時間変身しているなんて初めて。内臓黒匣が保ちません!
もつれる手で携帯注射器を取り出して、後頭部に乱暴に打ち込む。
ナイフを手に。目は霞んで焦点を結ばない。頭は石を詰められたみたいに重い。
それでも、ジゼル・トワイ・リートは分史対策エージェントなのよ。
「やあっとお出ましだね。ミラ=マクスウェル」
リドウ先生が骸殻を解除なさった。――了解です。
「相応の礼をさせてもらう」
「大歓迎――と行きたいが、生憎、時間切れだ」
リドウ先生がホールの四方にあらかじめ仕掛けておいた煙幕装置を起動なさった。
ホールが白い煙で満た
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