名を語られぬ彼らが想い
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の刃は心を切り裂いていく。
彼はこんなモノに耐えていたのだ。ずっとずっと、たった一人でこんなモノを背負っていたのだ。
否、否、断じて……否。
もっと深く絆を繋ぎ、戦をする度に矛盾を背負っていたのだから……彼は此れよりも夥しい自責の海に沈んでいたのだ。
頭の中が昏く軋む。涙が勝手に溢れて止まらない。怖くて仕方なかった。恐ろしくて仕方なかった。
私は何も、彼の事を分かっていなかった。彼の痛みを、分かっていなかった。
割り切れる人は多いだろう。絆を繋がず、名前も知らず、好意も向けられず、思いやりも気遣いも掛けられない……そんな自分にとってどうでもいい人間たちを切り捨てられるのが人というイキモノ。
けど、己を慕ってくれている人々を、絆繋いだモノ達を、最効率の為だけに死なせるなんて……そんな事を一人でずっと続けて、人に耐えられるわけが、無い。
――華琳様に着けば最も効率的に自分が望む平穏を作る道を歩けた。ソレを知っていながら彼らを死なせてきた。だから彼は……大嘘つき。
全てを無駄にしたから壊れた。この自責の声に、殺された。
あの人は強くなるしかなかったんだ。
あの人は狂ってしまうしかなかったんだ。
あの人は自分の幸せを捨ててしまうしかなかったんだ。
彼はこうやって人を外れてきたと理解した気になっても、真実は彼にしか分からない。
震える身体で、汚れる事も気にせずに掛け布を握った。温もりなど、あるはず無いのに。
胸に溢れる想いが止められなかった。
痛かったんだろう。
哀しかったんだろう。
苦しかったんだろう。
こんな気持ち、もう二度と彼に味わわせたくない。
――なら、私が背負えばいい。彼のように、私も強く、ならないと。
“こんなことを続けていつもの言葉を言ってくれると思ってるの?”
――私の望みを捨ててしまえば、彼は救われるんだから。
“あの人と過ごした大切な日々すら嘘にして?”
――私が……私だけが彼の代わりになれるはずなんだ。
“そうすることで、心の中のあの人は笑ってくれる?”
幽州に着いた日から。
『ただいま』と代わりに言ってしまった時から。
あの人が過ごした思い出を確かめた瞬間から。
私の中の彼は、決して笑ってくれない。
――でもやっぱり……今のあの人が乱世の果てで平穏に暮らせるなら、それでいい
頭に響く自問の声を否定する。
“私は自分にすら嘘を付いている”
それであの人が苦しまないでいいのなら
私は大嘘つきでも、構わない。
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