名を語られぬ彼らが想い
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そんな中で、彼らの怨嗟を止めさせるモノが戦場に張り上がる。
上げるな、と言われていた大切な音が、この戦場で鳴り響いた。
まるで白馬を助けるかのように、黒麒麟が白馬の王を助けに来たかのように……白馬義従を助ける為に黒麒麟の身体が動いたのだ。
敵から鳴った合図とは違う。何故なら、彼らが駆けながら鳴らしているのだ。
幾多も鳴る笛の音。己が脚で駆けて行く黒き麒麟の兵士達。彼らは皆、不敵な笑みを浮かべていた。
おお……と誰かが声を上げる。
自分達でも倒せぬ兵器を、彼らが倒せるとは思っていなかった。それでもその勇姿ある姿に心動かされたのだろう。
しかし……攻車に向かった彼らの行動を見て、皆が絶句し、恐怖に呑み込まれる事となった。
胸いっぱいに空気を吸い込んだ二人の麒麟は……駆けながら空を仰いでケモノの雄叫びの如き大声を張り上げる。
「「乱世にぃぃぃぃぃぃっ! 華をぉぉぉぉぉぉっ!」」
天高く響く、歓喜溢れる叫び声。抑え付けて抑え付けて、漸く上がった嘶きと黒麒麟の証明。
彼らは今、この時ばかりは覇王の命令に抗っていい。命を輝かせ、想いの華を咲き誇らせるに足る戦場であるが故に。
“俺達は誰だ。俺達の名は誰の元に。俺達の命は誰の為に”
渇望の叫びは怨嗟に染まらず、浮かべた表情はただ不敵。
“我ら、世に平穏を齎す黒麒麟の身体なり。この命の輝き、想いの華、願いの光……とくと目に焼き付けよ”
雄叫びを聞いたのは誰か。
駆けていた二人の男がぴたりと脚を止めて攻車の行く道に立ちはだかり……槍を投げた。真っ直ぐ、真っ直ぐに空を割くそれは、攻車を扱う敵を狙ってのモノ。
たかが歩兵に何が出来る。見ろ、槍を投げたのは想定外だが、この鉄の鎧を貫けるわけがなかろうて。
愉悦と油断に染まり切った表情が敵にはあった。敵は、圧倒的な力に酔っていたのだ。
馬が大地を蹴り、車輪が地を抉り、近付いてくる兵器は強大に過ぎた。しかして彼らにとっては、敵が強ければ強い程に意味がある。
――たった二人で抑えられるなら、“俺達如きで壊せるなら”、あの化け物……御大将の足元にも及ばねぇ。見晒せ袁家、恐怖と絶望に堕としてやらぁ。
楽しくて楽しくて、彼らは笑った。彼と比べてしまえばなんら取るに足らない相手だと気付いてしまえば、笑わずにいられない。
――俺達がコレを壊せばどれだけの人が救える? おおとも、少なくともこの戦場の奴等はもう殺されねぇわな。
ずっと追い掛けた背中は目に焼き付いている。身の内にある理想の姿は変わらず、黒麒麟に並び立てるほど強き男で守る側。彼のようになりたくて、彼らは徐晃隊にて戦い続けているのだから。
――そうあれかし……意地があんだよ男には、願いがあ
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