名を語られぬ彼らが想い
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た。自分の仲間には伝えまいと、心に決めて。
「なら……最期に上げさせて貰いやすぜ。俺達の証を」
「……構いません。思うままに戦ってください」
雛里だけは知っている。その笑みが、命じるモノを気遣う優しい笑みなのだと。彼に想いを向けていたように、雛里にも彼らは想いを向けている。それが嬉しくて、哀しかった。
だから彼女は許した。華琳が封じた、嘗ての言葉を。策を行う幾人かだけに、もういない彼らと同じになれるように、と。
「十個の兵器だ。鳳統様は三十って言いなさったが……二連馬相手なら二十人もいりゃ十分だろ。第四の六、八、十二、二十五……」
部隊長が兵士達に与えられた番号を呼び、呼ばれた男達は誇らしげに前に出た。大きく息を吸い、彼らは天に向けて槍と剣を突き刺し、自らの証を無言で示す。
大切な彼との証をこの残酷な世界に解き放つ。誰にも文句は言わせない。言うモノも、居ない――
「行けっ、バカ共! 俺らの意地を世に示してきやがれ!」
『応っ!』
此れから、二十人の麒麟が戦場を駆けるのだから。
郭図の誤算は……鳳凰と共に戦う黒麒麟の身体がこの戦場に居る事であった。
その攻車は騎馬の突撃を遥かに凌ぐ威力を持っていた。
質量の大きさ故、安定した重心故、そして扱うモノの力量故に。
死体を肉片と化して突き進む。立ち竦む敵を弾き飛ばす。纏まれば、一息に数人が命を失う。鉄で覆われている為に矢も効かず、なんら対応策が無いかに思われた。
「……あの馬、幽州のじゃねぇか!」
「乗ってるのは……っ……烏丸だと……?」
見紛うはずも無い。攻車を牽いているその馬は、彼女が愛した白馬なのだから。力強さも、美しさも飛び抜けている愛する馬を、袁家は自分達にぶつけてきたのだ。
しかも、扱うのは同じく見間違うはずのない特殊な鎧を着た長年の敵。散々辛酸を舐めさせられてきた異民族が乗っているとなれば、彼らの心に怒りが燃えないわけが無い。
憎しみを持つのは正しい。感情に突き動かされて戦うのもいいだろう。だが……無茶と無謀を穿き違えてはならない。
それでも兵士達は、ギリギリの線で律していた連携重視の戦闘を遂に破ってしまった。抑え付けられるわけが、無かった。
誰かが突撃した。幾人かが攻車に群がった。そして……馬と共に無残な肉塊と化した。
それでもあいつらだけは、と誰もが群がって行く。そうして命を散らしていく。
崩れた連携を立て直すのは容易では無い。それが機動力特化の騎馬隊であれば尚のこと。
もはや雛里を以ってしても抑えられない烏合の衆。白馬義従は、黒麒麟の身体のようには出来ていなかった。
士気は落ちずとも数が減る。そうして、戦況は曹操軍に悪い方向へと向かっていった。
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