名を語られぬ彼らが想い
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モノだ。否、この程度の事を容易に乗り越えられずして、何が大陸一の名軍師。彼の隣に並び立つ資格など、無い。
数瞬の後、ゆっくりと、彼女は扇を降ろした。
――でも、今の私達を相手取るには……不足に過ぎる。
この状況は手持ちの札だけで打破出来る……そう、判断して。
「白馬義従は死を恐れますか?」
歌は既に止ませた。異質な戦場となるならば、より早い指示で多くの兵を動かさなければならないと雛里が決断を下した為に。
伝令の兵を馬の上から見下ろした雛里は、冷たい声を続けて投げる。
「兵器は確かに強いモノでしょう。それでも、人の力を侮ってはいけません」
冷徹な瞳の昏さに、兵士はゴクリと生唾を呑んだ。感情を一切含まない軍師の輝き。人間らしさが、欠片も見当たらなかった。故に、この少女は我らの元には居なかった化け物の類だ、と瞬時に悟る。
「必要な時だけ出てもいいとお達しが出ています。私達の仕事を……始めましょうか」
再び後ろを振り返り、雛里は彼らに向けて優しく微笑んだ。
今から行う事は決死の突撃。彼らにとっては、いつもとなんら変わらない地獄の戦場。
『我らが大陸一の軍師、鳳凰の命じるままに』
一糸乱れぬ返答と、不敵な笑みは彼らの証。やっと戦えるのだと安堵したモノばかりが、傷だらけの腕に槍を持ちて頭を垂れた。
満足した雛里は目を切って、伝令の兵士にも微笑んだ。ぞっとするような……妖艶な笑みであった。
「白馬義従は巨大な弩に向けて強行突撃。壊せないとは言わせません。連馬の型で十に分けて纏まって動き、弩に特攻して壊してください」
兵器を壊す為に誰かの命を捨てろと、彼女は言っているのだ。それがどれだけ異常な事か分からぬ兵ではない……が、主を取り返す為ならばそのくらいの気概を持てなくてどうする……そう心を高めていく。
「鳳統隊は攻車を……全て破壊しましょう。向かうに足る方を部隊長さんが指名してください。駆ける麒麟の数は三十でいいでしょう。方法は――――」
つらつらと並べられていく説明に、動こうとしていた伝令の兵士は恐怖に取り込まれた。
そんな、そんな方法があるかっ……恐ろしさの余り叫びそうになった。自分達とは違う決死突撃の方法。無茶だ無謀だと、彼らも恐怖しているだろうと……黒麒麟の身体に目を向ける。
しかし彼らは、楽しそうに笑っていた。
「いいっすね。面白れぇ策だ。ははっ、さっすがは鳳統様」
「任しといてくださいや。俺らにしか出来ねぇ事ですから」
「やっと俺達らしい戦いが出来るってのは……くくっ、嬉しいねぇ」
笑顔は子供のようで、理解出来ずに首を振る。こいつらは狂っている……共に戦う白の兵士でさえ、そう感じた。
ぎゅっと目を瞑って白の兵士は駆け去っ
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